人事・労務業務におけるサポートを検討している方に向けて、産休育休取得において会社が行うべきことについて解説します。
女性が働く職場において必ず必要となるのが「産休・育休に関する知識」です。休暇についてのルールや手続きは複雑で、従業員も把握し切れていないことはままあります。
そこで会社が把握しておきたいのが育休産休に関する手続きや適切な対応法です。今回の記事では会社が知っておくべき基礎知識について解説。参考にしていただければ、法に則った正しい対応ができるようになるはずです。
産休・育休とは?
まずは産休・育休とはどのようなものかを見ていきましょう。
【産休・育休とは?[1]】
- 産休:産前休業もしくは産後休業
- 育休:1歳に満たない子どもを育児するための休業
出産する前後を含め、合計で15~16か月取得することがほとんどでしょう。上記のように産休は産前もしくは産後に取る休暇のことで、育休は出産した小さな子どもを育児するための休業のことを指します。
従業員から妊娠の報告を受けたときの対応
それでは会社側が従業員から「妊娠した」との報告を受けた際には、どのように対応すべきでしょうか?理想的な対応方法について3つご紹介します。
①産休・育休を取得するかどうかの確認
従業員から妊娠をしたと伝えられたら、まず会社側は産休育休を取得するかどうかを確認してください。産後休業・育児休業は雇用者が取得させなければなりませんが、産前休業は従業員の希望によって取得させるものです[1]。休暇を希望するかどうかの確認をして、希望するのであれば休暇取得中の人員配分について考えなければなりません。
もし産前休業を希望しないとしても、産後休業前後の希望スケジュールを確認しておくとスムーズに対応できるはずです。もし従業員の体調がすぐれず、急遽休暇を取得したいとなったときにも対応しやすくなるでしょう。
②産休を取得するために必要な準備の依頼
産休を取得する従業員に対しては、休暇取得のために必要な準備を行いましょう。たとえば次のようなことが考えられます。
【産前に必要となる準備】
- 定期券未使用分の返金処理
- 住民税徴収方法の変更
- 社内規定に基づく休暇取得のための書類提出依頼
- 出産手当金・出産育児一時金の必要書類提出依頼
【産後に必要となる準備】
- 子どもの戸籍謄本や住民票などの提出依頼
- 各種助成や給付金についての代行希望有無の確認
- 子どもの扶養追加
- 社会保険料免除終了手続きの依頼
- 厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書の提出依頼
- 必要があれば標準報酬月額の変更の申出提出の依頼
産前・産後と産休を取得するために必要な準備はたくさんあります。すでに支払っていた会社負担分の交通費に対して返金処理を行ったり住民税の徴収方法を変更したりする必要があるかもしれません。もちろん産休取得のための書類提出も必要となるでしょう。
そして産後は子どもの戸籍謄本や住民票を受け取り、健康保険の被扶養者として追加しなければなりません。厚生年金や社会保険に関わる手続きで書類が必要となることもあります。
必要となる準備は従業員の状況や企業の体制によって変わることもあります。事前に必要となる手続きや書類を確認し、従業員がスムーズに産休を取得し、復帰できるように取り計らいましょう。
③各給付金の説明
会社は、産休・育休を取得する従業員に対して、各給付金の説明を行う必要があります。前項でも少し触れましたが、出産・育児に対する給付金は次のとおりです。
【給付金】
- 出産手当金:出産以前42日~出産の翌日以降56日目まで[2]
- 出産育児一時金:妊娠85日~[3][4]
- 育児休業給付金:出産~出産後12か月まで[5]
- 出生時育児休業給付金:出産~出産後8週目まで[5]
- 育児時短就業給付金:出産~出産後24か月まで[5]
各給付金は従業員個人が申請しても構いませんし、会社側が申請の代行もできます。もし従業員が申請代行を希望するなら、会社側から行いましょう。申請期間は上記に示したとおりです。妊娠した従業員の出産予定日や産前産後のスケジュールを把握しておけば、申請代行希望の場合の手続きがスムーズになります。
以上のような給付金を活用できることを従業員に説明し、代行希望の有無を訊いておきましょう。
従業員が産休に入るときに作成する書類
従業員が産休に入るときに提出してもらわなければならない書類は「産前産後休業取得者申出書」です。
会社側が日本年金機構に産前産後休業取得者申出書を提出すれば、産前産後の一定期間において社会保険料が免除されます。産休が開始される月から、終了月までの社会保険料が免除されるため従業員にとっても会社にとっても重要性の高い書類です。
提出は産休期間中から、産休終了日の1か月前までに提出してください。もし期間内に提出できなかった場合は、休業を証明するための添付書類が必要になることがあります。期間内であれば産前産後休業取得者申出書だけで構いません。産休に入る従業員がいるなら、事前に申出書を作成してもらっておきましょう。
従業員から出産の報告を受けたときの手続き
それでは続いて、従業員から出産の報告を受けたときの手続きについてご紹介していきます。4つのステップにわけて解説しますので、出産報告を受けた際に行うべきことを順番に把握していきましょう。
STEP1:出産手当金の申請
従業員から出産報告を受けたら、まずは出産手当金の申請を行います。出産のために休業し、給与の支払いを受けられなかった場合に健康保険から支給されるのが出産手当金です[2]。対象期間は次のように規定されています。
出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として支給されます。出産日は出産の日以前の期間に含まれます。 また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても支給されます。
基本的に休暇を取得していた期間が対象となります。産休取得中に出産手当金よりも高額な給与の支払いがあった場合は対象とされません。給与が支払われていたとしても、出産手当金よりも少なかった場合は差額が支給される仕組みです。
出産の報告を受けたら、従業員への給与支払い状況に応じて、適切な出産手当金の申請を行ってください。
STEP2:出産育児一時金の申請
続いては出産育児一時金の申請を行いましょう。出産育児一時金とは、子ども1人に対して500,000円が支給される制度です[4]。退職後6か月以内の出産にも適用され、もしも早産・死産・人工妊娠中絶であっても妊娠12週以上であれば支給対象となります[4]。主に出産費用の負担を軽減するために支給される給付金です。
ただし出産育児一時金の申請には、医師による記入欄が設けられています。そのため申請前に、従業員に書類を渡して医師による記述をしてもらわなければなりません。
提出期限を確認して、事前に記入してもらうようにしましょう。
STEP3:健康保険への扶養の追加
子どもを健康保険の扶養に追加する手続きも重要です。子どもは生まれた日から被扶養者となるため、従業員の健康保険を統括している会社が手続きを行ってください。
手続きは事務センターまたは年金事務所で行えます[6]。出産日から5日以内が提出期限です[6]。被扶養者の戸籍謄本や住民票の写しが必要となるため、あらかじめ従業員に必要書類を伝えたうえで手続きを行ってください。
STEP4:産休中の社会保険料免除の変更
産休中には社会保険料免除の変更手続きが必要となります。健康保険料と厚生年金保険における保険料が免除されるため、従業員・会社側の両方への負担が軽減されるでしょう[7]。概要は次のとおりです。
(1)産前産後休業期間※中の健康保険・厚生年金保険の保険料は、被保険者・事業主両方の負担が免除されます。 ※出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の日後56日までの間で、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間 (2)申出書の提出にあたり、産前産後休業期間中における給与が有給・無給であるかは問いません。 (3)申出書の提出は、産前産後休業をしている間または産前産後休業終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に行わなければなりません。 (4)保険料の負担が免除される期間は、産前産後休業開始月から終了日の翌日の属する月の前月(産前産後休業終了日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)までです。免除期間中も被保険者資格に変更はなく、将来、年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。
手続きは事務センターもしくは年金事務所で行ってください。電子申請・郵送・窓口持参と3つの方法があります。提出期限は産前産後休業期間中または終了日から1か月以内です[7]。期間内に申請を行い、社会保険料支払いの負担を軽減させましょう。
従業員が育休に入るときに必要な対応
従業員が産休や育休に入るとき、会社はどのように対応すべきでしょうか?育休に入るときの必要な対応について3つの観点から解説していきますので、育休取得前の対応のための参考にしてください。
①社会保険料の免除に関する申請
まずは社会保険料の免除に関する申請を行ってください。前項で解説したように、産休中は健康保険料と厚生年金保険における保険料が免除されます。そして育休中にも免除は継続されるため、育児休業の希望を受けた際には会社側が手続きを行ってください。
免除される期間は育児休業を開始した月から、終了する翌日がある月までです[8]。同じ月に賞与が付与されるのであれば、1か月以上の育休取得にて賞与にかかる保険料も免除対象となります。従業員が育休に入るならば、社会保険料の免除に関する申請は必ず行いましょう。
②育児休業給付金の申請
あわせて行っておきたいのが「育児休業給付金の申請」です。育児休業給付金は、1歳未満の子どもを養育するために取得する育児休業に対して支給される給付金です[9]。
育児休業給付金は「パパ・ママ育休プラス制度」も活用でき[9]、従業員が産後パパ育休を取得した場合にも申請可能です。もちろん女性が希望した場合にも申請できます。
③育休を取得した従業員へのサポート
育休を取得した従業員へのサポートも会社側が行うべき対応のひとつでしょう。産休・育休前のサポートはもちろん、休暇取得後の復帰支援も会社が行いましょう。
育児に関する相談窓口を設置し、短期間での勤務を許可したりなど、子どもを育てながら安心して働けるような環境づくりが大切です。
従業員から育休の延長を希望されたときの手続き
産休育休を取得している従業員から、会社に育休の延長を希望するケースも考えられます。もし延長を求められたときには、会社は適切な手続きをとらなければなりません。その場合に行いたい2つの手続きも確認していきましょう。
社会保険料免除の延長
休暇が延長されるのであれば、社会保険料免除の延長手続きも必要となります。育児休業等取得者申出書を再度提出することにより、育休による社会保険料免除の延長を申請可能です。手続きは新規手続きの場合と同じで構いません。
育児休業給付金の支給期間の延長
育児休業給付金の支給期間延長手続きも行いましょう。雇用保険に加入している従業員であれば、育休を延長したとしても期間内に申請することによって延長が認められるでしょう。
従業員が職場に復帰するときにやるべきこと
最後に、従業員が育休産休を経て会社に復帰するときに行うべきことについて解説します。
①育児休業の終了届の提出
もしも当初の予定より早く復帰した場合、育児休業の終了届を提出してください。正式名称は「育児休業取得者申出書終了届」です。予定通りの日程で復帰したなら提出しなくても構いません。早めに休暇を終了した場合は、日本年金機構へと必要書類を提出しましょう。
②社会保険料免除を終了する手続き
社会保険料免除を終了するための手続きも必要となります。育休から産休を取得する場合、社会保険料免除の手続きを行いますが、最初の予定よりも早く職場復帰する場合は別途手続きが必要です。予定通りの復帰であれば手続きは行わなくて問題ありません。
もし社会保険料免除を終了する手続きを行うなら、年金事務所や事務センターに終了届を提出してください。
③社会保険の報酬月額変更届の提出
場合によっては社会保険の報酬月額変更届の提出も必要となるかもしれません。報酬月額変更届は、報酬が減少した際に保険料負担を軽減するための手続きです。
たとえば職場復帰したものの、育児のために短時間勤務が必要となり、月額給与が少なくなることも考えられるでしょう。その場合、以前と同じ支払い額であると社会保険料の負担が大きくなってしまいます。そのため従業員が希望するなら、社会保険の報酬月額変更届を提出しましょう。
④年金の給付額を変更する手続き
育児のために従業員の給与が低下した場合、年金給付額の変更手続きが必要になることがあります。手続きを行うと、給与が低くなっても産休育休前の標準報酬月額にて年金額を計算できるようになります。
給与が低くなると、将来受け取る年金額も比例して低くなるものです。しかし手続きをするとより多くの年金が支払われる可能性が高くなり、従業員の将来に対する安定性がより高まるでしょう。
産休育休の取得手続きは会社も把握することが大切
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことで産休育休に対する会社側の対応をご理解いただけたと思います。産休・育休は従業員の希望によって取得されるものですが、適切な対応を取るため、会社側でも知識を備えておくことが大切です。
しかし法律が絡んでくるため、対応が難しいと感じられるかもしれません。HRプラス社会保険労務士法人では企業規模に関わらず、人事・労務問題へのサポートをご提供しております。レスポンスは24時間以内と迅速さを重視。人事・労務業務をより適切に遂行したいと思われているなら、HRプラス社会保険労務士法人へとお気軽にお問い合わせください。 [1]
参照:厚生労働省:(PDF)3 産休と育休のこと 4 産休・育休中のお金のこと
[2]
[3]
[4]
参照:日本年金機構健康保険組合:出産したとき 【出産育児一時金(家族出産育児一時金)、出産手当金】
[5]
[6]
参照:日本年金機構:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き
[7]
参照:日本年金機構:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が産前産後休業を取得したときの手続き
[8]
参照:日本年金機構:6-4:育児休業等を取得し、保険料の免除を受けようとするとき
[9]
コラム監修者

特定社会保険労務士
佐藤 広一(さとう ひろかず)
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演