人事・労務担当の方に向けて、1か月の労働時間の目安や算出方法について解説していきます。
働き方改革を経て、労働に関する法律が厳しくなりました。「労働基準法違反になる条件は?」「1か月の労働時間はどこまで?」と、労働と法律の関係性について悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、1か月の労働時間の上限や、平均所定労働時間数、残業時間の計算方法など、労働時間についてまとめました。参考にすることで、法律を遵守した雇用の実現につながります。
所定労働時間と法定労働時間の違い
所定労働時間と法定労働時間には次のような違いがあります。
【違い[1]】
- 所定労働時間:就業規則や労働契約書によって定められた労働時間
- 法定労働時間:労働基準法によって定められた労働時間の限度
つまり所定労働時間は企業が決めた始業時間から就業時間までの労働時間です。対して法定労働時間は法律によって定められた労働時間。
労働基準法で定められた法定労働時間を基に換算すると、1か月のおおよその労働時間の限度は160時間程度となります[2]。法定労働時間を超えると時間外労働となるため、所定労働時間は160時間以内に収めなければなりません。
以上のように、所定労働時間は企業が定めた労働時間であり、法定労働時間は労働基準法で定められた労働時間です。
1か月の平均所定労働時間数とは?
1か月の平均所定労働時間数とは、年間で働いた時間数を平均した、1か月あたりの労働時間のことを指します。年間の合計労働時間を12で割ることにより算出可能です。
算出が必要であるとされていますが、なぜ算出しなければならないのか、計算方法とともに見ていきましょう。
1か月の平均所定労働時間が必要な理由
1か月の平均所定労働時間が必要となる理由は、手当の計算に必要となるためです。残業手当、休日出勤手当などは、月給制であったとしても時給を用いて算出されます。時給を求めるには平均所定労働時間数を求めなければなりません。
1か月の日数は月によりまちまちです。30日のとき、31日のとき、28日のとき、29日のときと4パターンが考えられます。そこで月ごとに時給を算出していては、月によって時給が異なってしまうでしょう。そのため年間の日数から算出し、どの月の手当計算でも採用できる平均時給を算出する必要性が生じます。
手当を正しく算出するためには、平均的な1か月の労働時間を求める必要があります。
月平均所定労働時間数の求め方
月平均所定労働時間数は次のように求めます。
(年間の日数-年間休日日数)×1日あたりの所定労働時間÷12か月
年間の日数は365日もしくは366日で計算してください。そして年間の休日の日数を引いたところに、1日あたりの所定労働時間を乗じます。すると年間の所定労働時間が算出されるため、12で割った数が1か月あたりの平均的な労働時間です。上記の計算式を用いて算出しましょう。
実際の計算例
それでは実際の計算例を見てみましょう。 【条件】
- 年間日数:365日
- 年間休日数:122日
- 1日の所定労働時間:8時間
(365日-122日)×8時間=1,944時間 1,944時間÷12か月=162時間
以上のように1か月の労働時間の平均は「162時間」であると算出できました。
残業時間と残業代の計算方法
1か月の労働時間を算出するのは、手当を正しく計算するためであると解説しました。多くの企業で、最も多く生じる手当は残業代ではないでしょうか。そこで1か月の労働時間を算出したあとに、どのように残業代を計算すべきかご紹介します。
残業時間の計算方法
まずは残業時間の計算方法から見ていきましょう。残業時間を計算するには、まず「法定内残業」か「法定外残業」かを区別しなければなりません。それぞれの概要については以下のとおりです。
【残業の種類】
- 法定内残業:所定労働時間を超過した労働時間分
- 法定外残業:法定労働時間を超過した労働時間分
所定労働時間と法定労働時間の違いは最初に解説しました。企業が定めた所定労働時間を超えても、法定労働時間を超過していない場合には残業手当は発生しません。残業手当が発生するのは、法定労働時間を超過した分のみです。残業時間を算出するには、「法定外残業がどのくらい発生したか」を求めましょう。
残業代の計算方法
残業時間を算出できたら、次の計算式で残業手当を求めてください。
残業時間×基礎時給×割増率
基礎時給とは平均的な1か月の労働時間から算出された時給のことです。割増率と条件は次のとおりです[3]。
労働時間 | 割増率 |
1日8時間、1週間40時間を超過した場合 | 25%以上 |
時間外労働が1か月45時間、1年360時間など限度時間を超過した場合 | 25%以上 |
時間外労働が1か月60時間を超過したとき | 50%以上 |
上記の表の中から該当する割増率を選び、計算式に当てはめましょう。たとえば残業時間が3時間で基礎時給が1,800円、割増率が25%であった場合は次のように計算されます。
3時間×1,800円×25%=1,350円
この条件の場合、残業手当は1,350円となります。計算方法は上記の手順で算出できます。
法定労働時間を超える残業の上限
法定労働時間を超える残業の上限は、1か月あたり45時間、1年あたり360時間となっています[4]。
時間外労働の上限は、法改正によって新たに定められました。以前は残業時間の上限はありませんでしたが、改正されたことにより上記の時間数を超過する残業は認められなくなりました[4]。
特別な事情があり上限を超える残業をしなければならなくなったとしても、さらなる上限が設けられています。そのため以下の上限を超える残業が禁止です。
【残業時間上限[4]】
- 1年間で720時間以内
- 複数月で休日労働を含む平均80時間以内
- 1か月あたりで休日労働を含む100時間以内
残業時間は法によって上限が定められています。上記の時間数を超えないよう、従業員あたりの1か月の労働時間をしっかりと把握しましょう。
1か月の総労働時間の上限
1か月の総労働時間の上限は法律で直接定められていません。規定されているのは「1日8時間以内、1週間40時間以内」です。そのため1か月あたりの時間は、対象月の日数から計算しなければなりません。
1か月の日数÷7日×40時間
上記の計算式であれば、1週間に40時間の上限から、1か月あたりの総労働時間上限を導き出せます。
労働形態ごとの労働時間と計算方法
労働時間と計算方法は、労働形態によっても変わります。1か月の労働時間を算出するなら、次のような特殊な雇用形態の計算方法も知っておきましょう。
変形労働時間制
変形労働時間制では、法律の範囲内で労働時間を調整することが可能です。小売業やサービス業などで採用されることが多い制度です。
変形労働時間制は1か月単位もしくは1年単位で設定されることが多く、対象の期間内で労働時間を調整します。たとえば洋菓子店であればクリスマス前後の繁忙期に労働時間を長くし、夏などの閑散期に労働時間を短くする措置が取られるはずです。そのため次のように労働時間の上限を計算します。
40時間×対象期間の日数÷7日
上記の方法で計算して、対象期間の労働時間が1週間あたり40時間に収まるようにしましょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制でも、期間内の平均労働時間が1週間あたり40時間に収まるようにしてください。計算方法は次のとおりです。
40時間×精算期間の日数÷7日
ただしフレックスタイム制では「精算期間」の考え方があり、精算期間が3か月の場合、1か月あたりの労働時間は1週間平均50時間以内であれば認められます。
精算期間とは労働時間を平均する対象期間のことです。1か月から3か月の間で自由に設定できます。精算期間が1か月を超える場合は、下記の2つの条件を満たして上限時間数を算出してください。
【条件[5]】
- 精算期間内の総労働時間が1週間のうち平均40時間を超過しない
- 3か月間のうち1か月あたりの労働時間が1週間あたり平均50時間を超過しない
精算期間によって計算方法が変わるため、自社で定めた精算期間にしたがったうえで労働時間の上限を超えないようにしましょう。
裁量労働制
裁量労働制を採用している場合は、「1日8時間以内、1週間で40時間以内」と、一般的な労働と同じ規定となります。
ただし労使協定でみなし労働時間を定めておかなければなりません。みなし労働時間とは1日の労働時間としてみなす時間のことです。事業所の外で労働をした場合、会社側が純粋な労働時間を把握できないことがあります。そのため実際に労働した時間ではなく、業務を遂行するために必要とされた時間を労働時間とする仕組みがみなし労働時間制です。
そのため裁量労働制を採用している企業は、実際の時間数ではなく、業務を遂行するために必要と考えられる時間を労働時間として扱います。実際の時間数を換算しているわけではないものの、一般的な労働と同じように労働時間を計算する仕組みです。
過労死との関連性がみられる労働時間
過労死との関連性がみられる労働時間数は、厚生労働省により次のように公表されています。
【時間外労働時間との健康被害の関連性[5]】
- 1か月45時間以上:健康被害リスクが上昇する
- 1か月60~80時間以上:健康被害リスクがさらに上昇する
- 1か月100時間以上:健康被害リスクが非常に大きくなる
1か月100時間以上時間外労働をするとなると、1か月の労働日数が22日とすれば、1日4時間以上の残業をすることも少なくないでしょう。1日に換算すると、12~13時間以上労働することになります。
すると睡眠時間が少なくなり、心身への悪影響が現れやすくなるとされています。個人差はありますが、1か月で平均45時間を超える時間外労働が発生している場合は、企業の雇用体制を見直すことが望まれます。
労働時間の上限を超えた場合の影響とは?
労働時間は法律によって上限が定められています。それでは上限以上に労働を強いた場合、どのような影響が現れるのでしょうか?従業員の健康悪化や離職増加といった影響に加え、公的には次の2つの影響が考えられます。
①罰則が発生する可能性がある
ひとつめは、罰則が発生する可能性があることについてです。労働時間の上限を定めているのは「法律」です。つまり上限を超過した労働を課すことは法律違反であり、罰則を受ける対象となり得ます。厚生労働省のパンフレットによると、時間外労働の上限を超過した場合の罰則は次のとおりです。
上記に違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課せられるおそれがあります。
違法な労働を課した場合、懲役刑や罰金刑の対象となる可能性があります。
②企業イメージが低下する
企業イメージが低下することも影響のひとつです。違法の労働を強いて罰則を受ければ、「法律違反をした企業」とのイメージがついてしまいます。企業イメージの低下は避けられません。
ともすると取引に悪影響が生じたり、顧客が離れてしまったりすることもあるかもしれません。企業イメージを守るためには、適法な労働環境を整える必要があります。
1か月の時間外労働時間を減らす方法
適切な雇用をするには、1か月の労働時間を管理する必要があります。まず減らしたいのは1か月の時間外労働時間ではないでしょうか?時間外労働時間を減らしたいと思われているなら、次の3つの方法を試してみてください。
方法①人事評価制度の再構築を図る
人事評価制度の再構築をはかることは、時間外労働を減らすための第一歩となります。もし時間外労働を積極的にしている従業員の評価を高めているなら、企業自体が時間外労働を推奨する形になってしまっているかもしれません。
改善をはかるには残業ではなく、生産性の高い業務を行えたこと、積極的に業務に取り組めたことなどを評価対象としましょう。すると自然と残業時間が減っていく可能性があります。
方法②ノー残業デーを取り入れる
ノー残業デーを取り入れることも方法のひとつです。すべての従業員が残業をしない日を設ければ、「帰りたいけれど他の人が残業をしているから帰りにくい」と、無理に残業をしてしまう人を減らせます。
無理にする残業は、いわば従業員にとっても企業にとっても不要なものです。ノー残業デーを取り入れることにより、従業員の心身の負担を減らせるとともに、企業の人件費削減にも役立つでしょう。
方法③勤怠管理システムを見直す
最後に、勤怠管理システムを見直すことも方法のひとつです。勤怠管理システムの中には、残業時間が一定になると、通知してくれる機能を備えたものもあります。従業員全体の残業時間を管理しやすくなるのでおすすめです。
人事担当者がすべての従業員の残業時間を把握するのは非常に困難です。勤怠管理システムを導入したり見直したりすれば、残業過多の従業員にあらかじめ警告もできるでしょう。
1か月の労働時間は適切に把握を
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことで、1か月の労働時間について理解を深めていただけたのではないでしょうか。労働時間には所定労働時間と法定労働時間の2種類があり、法律を遵守するにはそれぞれの違いや1か月の労働時間の計算法を知らなければなりません。
しかし労働時間の計算はパターンに応じて違い複雑なものです。HRプラス社会保険労務士法人では、幅広い企業の顧問を行っており、労働時間の計算もサポートいたします。もし人事・労務に関してお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
[1]
参照:新潟雇用労働相談センター:所定労働時間と法定労働時間は違うの?
[2]
[3]
参照:厚生労働省:(PDF)しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-
[4]
[5]
コラム監修者
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演