人事労務担当者の方に向けて、休日出勤時の手当の計算方法や適法な運用方法について解説します。
繁忙期になると従業員に休みの日の労働を命じなければならないこともあります。しかし休みに働くときに関する法定のルールは簡単ではありません。出勤日が法定休日であるか法定外休日であるか、代休を取得するかどうか、時間外労働が発生したかどうかにより手当の計算方法は変わります。
今回の記事では、休みの日の労働を正しく運用するための方法や、8時間以上の休日出勤をした場合の手当の計算方法などを解説します。参考にすることで、法律を遵守した正しい休日出勤への対応を理解できます。
休日出勤とは?
休日出勤とは、本来は休日である日に労働をすることです。
労働基準法第35条によると、1週間に1回もしくは4週間で4回以上の休日を与えなければなりません[1]。法定の基準で定められている休日に労働をさせた場合、休日出勤をしたとされます[2]。
以上のように休日出勤の定義とは、法定で定められている休日において労働を命じることです。
「休日」と「休暇」の違い
「休日」と「休暇」には次のような明確な違いがあります。
【違い】
- 休日:法定により労働義務が生じていない日
- 休暇:法定では労働の義務があるものの免除されている日
つまり休日は法律によって守られた休みの日であり、休暇は労働基準法や就業規則によって休むことが認められている日です。たとえば企業から与えられる「有給休暇」「産前産後休暇」「介護休暇」「生理休暇」などが休暇に該当します。それに対して休日とは、ひとつ前の項目で解説したように、労働基準法第35条に定められた労働義務が生じない日です。
休日と休暇は混同してしまいがちですが、法定による労働義務が定められているかどうかに大きな違いがあります。
休日出勤時の休憩時間の取り扱い方
休みに働く際の休憩時間は通常通りの取り扱いとしてください。労働基準法第34条には次のように記されています。
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
通常の労働においても労働基準法においての休憩時間は守られているはずです。6時間以上労働する場合は45分以上、8時間以上の出勤であれば1時間以上の休憩を与えましょう。
休日の種類
「休日」とは、法定で定められた労働義務が生じない日であると解説しました。休日には大きく分けて2種類があります。
法定休日
法定休日とは、法律によって与えなければならないとされている休日のことです。労働基準法第35条には次のような記載があります。
(休日) 第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。 ② 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
労働契約や就業規則に記載がある場合は、対象の日が法定休日となります。記載がない場合は、日曜日を法定休日とするのが一般的です。労働基準法にあるように、1週間に1回、もしくは4週間で4日以上与えなければならないと法律で決まっているのが法定休日です。
法定外休日
法定外休日とは法律で定められていないものの、休日と定められた日のことです。労働基準法に定められている日数以上に設定される休日のことを指します。
つまり、法律で義務付けられていない休日のことです。一例として、週休2日制を導入している企業では、法定で義務付けられた休日に加えて、もう1日を休日とする場合があり、これが法定外休日にあたります。
法定外休日は労使協定や就業規則によって定められるものです。「1週間に1日、4週間に4日」以外に与えられる休日が法定外休日だと考えてください。
休日出勤は違法になるのか?
休日出勤は違法となる場合がありますが、要件を満たせば適法とされます。次の5つの要件が満たされていれば適法となります。
36協定の締結 | 36協定を締結していなければ休みの日の労働はさせられない |
36協定の規定範囲内 | 時間外の働いた時間と休日出勤の日数が規定の範囲内である |
労働契約や就業規則での明記 | 休みの日の労働の可能性があることが明記されている |
必要性 | 休みの日の労働が必要である |
妥当性 | 休みの日の労働の命令が相当である |
36協定とは、労働組合または労働者の過半数代表と締結し、労働基準法第36条に基づいて時間外労働や休日労働を可能にするための協定です[1]。36協定が事前に締結されていなければ、休みの日の労働が8時間以上であってもなくても違法とされます。
8時間以上であるかどうかを問わず休みに働くことを課す場合は、法律に抵触しないかどうかを事前に確認しなければなりません。それでは休みの日の労働を命じて違法となる場合と適法となる場合、2つのケースについて詳しく見ていきましょう。
休日出勤の命令が違法になる場合
休みに働くときの命令が違法になるのは、労働基準法や協定、就業規則、労働契約に反したときです。また、休日出勤の命令が社会的に相当でないと判断された場合も、違法とされる可能性があります。
労働者の休日は法定や協定、労働契約などによって確保されるべきものです。そのため休みの日の労働について労働者が知らされていない、同意していない状態で休みに働くよう命令を出してはなりません。命令をするためには根拠となる規定が必要です。
「社会的に相当であるかどうか」は規定によるものではなく、客観的に見た場合、妥当な命令であるかどうかで判断されます。たとえば必要がないにもかかわらず、嫌がらせ目的で出勤命令を出した場合などが該当するでしょう。重要となるポイントは、規定があるかどうかと、社会的相当性のある命令であるかどうかです。
休日出勤の命令が違法にならない場合
休みの日の労働の命令が違法にならないケースは、36協定が締結されており、協定で定められた範囲内で妥当な出勤命令が出された場合です。
36協定を締結しただけで休みの日の労働を命令できるようになるわけではありません。さらに協定によって定められた範囲内の業務であること、労働契約や就業規則によって休みの日の労働の可能性が明記されていることも必要。もちろん出勤しなければならない状況であることも重要な事項のひとつです。
規定に沿った形で妥当な命令をするのであれば違法にはなりません。
休日出勤手当が発生する主なケース
休みの日の労働は要件を満たしていれば、適法として指揮命令の範囲内に収まります。それでは続いて、休日出勤時に手当が発生するケースを見ていきましょう。
ケース①法定休日に出勤した
まずは法定休日に出勤したケースです。手当は時間ごとに次のように決められています。
【割増率[3]】
- 6:00~22:00:1時間あたりの基礎賃金の1.35倍以上
- 22:00~翌5:00:1時間あたりの基礎賃金の1.60倍以上
22時以降の割増率が高いのは、休日労働手当と深夜労働手当の両方を加算しているためです。基本的な割増率は22時までと変わりません。法定休日に出勤した場合、労働者の賃金は通常の1.35倍以上となります。
ケース②法定外休日の出勤で時間外労働が発生した
法定外休日の出勤で時間外労働が生じた場合は、1.25倍以上の手当が発生します。深夜労働が発生した場合は、深夜労働割増が加算され、合計で1.50倍となります。
ケース③休日出勤に伴い代休を取得した
休日出勤に伴い代休を取得した場合、手当は次の割増率で支払われます。 【割増率[4]】
- 法定外休日の場合:1週間40時間を超過した働いた時間に対して1.25倍
- 法定休日の場合:実労働時間に対して1.35倍
休日出勤が法定外休日か法定休日かによって割増率が異なる点に注意が必要です。
休日出勤手当が発生しない主なケース
続いては休日手当が発生しないケースについて解説します。休日出勤を命じた場合でも、必ず手当が発生するわけではありません。次の3つのケースにおいては手当が発生しませんので、条件について把握しておきましょう。
ケース①振替休日を取得し、休日出勤で時間外労働が生じなかった
ひとつめは振替休日を取得し、さらに休日出勤当日に時間外労働が生じなかった場合です。振替休日は「休日が変更される」ことを指すため、本来の休日に出勤したとしても手当は発生しません。
ただし本来の休日に8時間以上勤務し、時間外労働が生じた場合は、通常どおり残業手当を支払う必要があります[5]。振替休日を取得したこと、出勤日に時間外労働がなかったことの2つの条件を満たす場合、手当は発生しないと考えてください。
ケース②法定外休日に出勤し、時間外労働が生じなかった
法定外休日に出勤し、時間外労働が生じなかった場合も手当は必要ありません。手当が発生するのは、あくまでも「法定休日に勤務させた場合」です。企業が定めた法定外休日に出勤したとしても、労働基準法における割増賃金の対象とはなりません。
ただしやはり、時間外労働が生じた場合は残業手当が発生します。ひとつ前の項目と同じように、法定外休日の出勤であること、時間外労働がないことと2つの条件を満たす必要があります。
ケース③みなし残業制を採用している
最後に、みなし残業制を採用しているケースでも手当は発生しないことがあります。手当不要となる条件は、法定外休日での出勤であり、かつみなし残業の時間内であったこと。みなし残業制度を採用している場合でも、次のケースでは別途手当が必要となります。
(2)「固定残業代」を支払うこととする場合、①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分(固定残業代)とを判別できるようにした上で、②割増賃金に当たる部分(固定残業代)の金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、その差額を支払う必要があります出典:スタートアップ労働条件:固定残業代を支払うこととすれば、残業や休日勤務をさせても別途に残業代を支払わなくてよいでしょうか?
反対に考えれば、みなし残業の時間を超過して働いた場合は手当が発生するということです。さらに法定休日に労働を命じた場合は、みなし残業の時間内であっても手当が発生することに注意しましょう。 法定外休日であること、みなし残業の時間内であることが手当が生じない条件です。
休日出勤で8時間働いた場合の手当はいくら?
休みの日の労働を命じると、手当が発生する場合があると解説してきました。それでは休日出勤で8時間以上働いた場合、手当はいくらになるのでしょうか?
計算方法の基本として、手当金額は時給から算出されることを知っておきましょう。もし月給制であったとしても一旦時給に換算して計算します。
それでは時給から計算することを念頭に置いたうえで、3つのパターンから手当金額を算出してみましょう。
法定休日に8時間働いた場合
法定休日に働いた場合は、次の計算式によって手当金額を算出できます。
基礎賃金×1.35×働いた時間
法定休日の労働における割増率は0.35倍です[5]。もし時給が1,800円で休みの日の出勤が8時間以上あった場合、次のように算出されます。
1,800円×0.35×8時間=5,040円
基礎賃金に5,040円が加算され、賃金の合計は19,440円となります。ただし上記の結果はあくまでも日中に労働した場合です。22時から翌日5時までの労働であれば、別途深夜手当も加算してください。休日出勤だけの手当であれば、5,040円の休日手当が発生することになります。
法定外休日に8時間働いた場合
法定外休日に8時間以上働いた場合の手当を計算するなら、次の計算式を用いてください。
(基礎賃金×所定労働時間)+(基礎賃金×0.25もしくは0.60×法定時間外労働時間)
割増率は時間外労働に対してのみ0.25倍です[5]。もし時間外労働が1か月60時間を超過した場合は0.50倍となります[5]。時給が1,800円、法定外休日に9時間働いたとして計算してみましょう。
1,800円×0.25×1時間=450円
基礎賃金14,400円に手当450円を加算して、合計14,850円の賃金となります。 ただし休みの日の出勤が8時間以上ではなかったとしても、1週間の働いた時間が40時間を超過していれば手当が発生します。法定では「1日8時間以内、1週間40時間以内」を超えた場合、時間外労働に対する手当を支払わなければならないとしているためです。
法定外休日では休日手当は生じないため、法定から超過した労働分のみ支払ってください。
法定休日の深夜帯に8時間働いた場合
法定休日の深夜時間帯に8時間の労働があった場合は次のように計算します。
(基礎賃金×0.35×働いた時間)+(基礎賃金×0.25×深夜に働いた時間)
法定休日に深夜時間帯の労働を命じた場合、「休日手当」と「深夜手当」の両方が発生します。法定休日における労働では0.35倍の手当が生じ、深夜手当では0.25倍の手当です。同じく時給1,800円で、8時間の休日労働があり、そのうちの4時間が深夜労働であった場合で計算してみます。
(1,800円×0.35×8時間)+(1,800円×0.25×4時間)=6,840円
手当の金額は6,840円です。基礎賃金が14,400円であるため、合計21,240円となります。
休日出勤手当を正しく運用するポイント
最後に休日出勤手当を正しく運用するためのポイントについて見ていきましょう。休日出勤は8時間以上であってもなくても、ともすれば違法にもなりかねません。正しく運用するための方法を5つのポイントから解説します。
ポイント①36協定を締結する
第一に36協定を締結することが欠かせません。協定が締結されていない状態で休みの日の労働を命じると違法となるため、事前に36協定を締結して労働基準監督署に届け出てください。
ポイント②就業規則へ明記する
休みの日の出勤があり得ることを、就業規則に明記しておくことも重要です。労働者への周知がされていないと、労使トラブルに発展する可能性もあります。定義や手当の計算方法まで、就業規則に明記しましょう。
ポイント③時間外労働や深夜労働について理解する
使用者が時間外労働や深夜労働について理解を深めることもポイントとなります。手当の重複や発生条件を把握しておかなければ、正しく手当を支払えなくなります。手当が発生する条件を正しく理解することが重要です。
ポイント④法定休日と法定外休日、振替休日と代休の違いを整理する
法定休日・法定外休日・振替休日・代休の違いを整理することは、休みの日の出勤の正しい運用においては欠かせません。命じ方によって、発生する手当の金額は変わります。それぞれの違いを整理し、使用者・従業員ともに納得できる道を探りましょう。
ポイント⑤特殊な雇用形態への対応方法を押さえておく
パート・アルバイトなどの雇用形態ごとの対応方法を押さえておくことも大切です。正社員・パート・アルバイトと、いずれの雇用形態でも出勤をした場合は同じように手当が発生します。ただし管理職に関しては割増賃金が発生しません。雇用形態ごとに手当が発生するルールを押さえておきましょう。
休日出勤で8時間以上働かせるならあらかじめ確認を
いかがでしたでしょうか?本記事を通じて、休日出勤で8時間以上働いた場合の手当について理解を深めていただけたのではないでしょうか。休みの日の出勤にはさまざまなパターンがあるため、今回の記事を参考にしながら整理してみてください。
HRプラス社会保険労務士法人では、スタートアップ企業から上場企業まで、幅広い企業の顧問を行っております。もし休みの日の労働のルールや手当の算出方法でお困りでしたら、ぜひお気軽にわたくしどもまでご相談ください。
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[2]
参照:大阪労働局:よくあるご質問(時間外労働・休日労働・深夜労働)
[3]
参照:厚生労働省:(PDF)7.時間外、休日及び深夜の割増賃金
[4]
[5]
コラム監修者
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演