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公開日:2025.12.18

更新日:2025.12.18

ストレスチェック義務化は50人未満も対象に!実施手順や導入ポイント

2025年に改正労働安全衛生法が公布され、50人未満の事業場にもストレスチェックが義務付けられました。
施行時期は2028年ですが、社内体制の整備に向けて早期の準備が求められます。

本記事では、ストレスチェック義務化の最新情報や対応手順、導入のポイントをまとめました。
何から準備を始めるべきかお悩みの人事労務担当者の方に向けて、実務に役立つ知識をお伝えします。

【2025年最新】ストレスチェック義務化はいつから?

2015年12月、従業員50人以上の事業場に年1回のストレスチェックが義務化されてから、早10年が経過しました。
雇用形態に関係なく、以下の要件を満たす労働者はストレスチェックの対象となります。

対象者 詳細
無期雇用労働者
有期雇用労働者 契約期間が1年以上である者
契約更新により1年以上使用されることが予定されている者
1年以上引き続き使用されている者

通常の労働者の所定労働時間と比較して、勤務時間が4分の3未満の短時間労働者は対象に含まれません。
以下では、ストレスチェック義務化の最新動向を解説します。

  • 2028年度には50人未満の企業も対象に
  • 事業場の状況を考慮したマニュアル整備が進められている

詳細を見ていきましょう。

参考:ストレスチェック制度導入ガイド|厚生労働省

2028年度には50人未満の企業も対象に

「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が第217回国会で成立し、2025年5月14日に公布されました。
ストレスチェックにかかわる改正内容は、以下のとおりです。

ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても実施を義務とする。
その際、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保する。
引用:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要|厚生労働省

準備期間を設ける目的で、施行期日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされています。
したがって2028年度以降は、50人未満の事業場を含むすべての企業でストレスチェックが義務化される見込みです。

労働者のメンタルヘルス不調を予防する重要性は、企業規模に関係ありません。
職場環境の改善や労働生産性の向上にもつながるため、実施体制の整備を早めに進めることが大切です。

事業場の状況を考慮したマニュアル整備が進められている

厚生労働省による検討会では、50人未満の事業場におけるストレスチェック義務化について、以下の課題を指摘する声がありました。

  • 労働者のプライバシー保護
  • ストレスチェックの実施者や、産業医の確保
  • 都市部と地方の格差
  • 外部委託を利用する場合のコスト負担
  • 個別性、特殊性に応じた実効性の確保など

そこで厚生労働省は、50人未満の事業場が実効性のある体制や方法を検討できるよう、マニュアルの整備を進めています。
マニュアルは2026年度に公表される予定のため、体制整備を進めつつ、最新情報のキャッチアップに努めましょう。

参考:第1回~第6回検討会における主な意見及び論点案|厚生労働省
参考:「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」作成ワーキンググループの設置について|厚生労働省

ストレスチェック義務化に対応するメリット

ストレスチェックの実施は、労働者の心身の健康を守るだけでなく、企業の持続的な成長にも貢献します。
具体的なメリットは、以下の2点です。

  • メンタルヘルスの不調を早期発見できる
  • 企業価値の向上につながる

それぞれ見ていきましょう。

メンタルヘルスの不調を早期発見できる

ストレスチェックを導入すると、労働者が自身の不調に気づきやすくなります。
ストレスの兆候を早期に発見するメリットは、以下のとおりです。

  • 意欲や集中力の低下を防ぎ、パフォーマンスを維持しやすくなる
  • 精神疾患を発症する前段階で対処できる
  • 労災や法令違反のリスク低減に寄与する

労働者の高ストレス状態が続くと、業務に支障をきたし、労働生産性が低下します。
悪化を放置すれば、休職や離職によって貴重な労働力を失いかねません。

ストレスチェックによる不調への早期対処は、企業の生産性向上にも貢献するといえるでしょう。

企業価値の向上につながる

ストレスチェックは個人単位だけでなく、組織全体の状況把握にも役立ちます。
以下のような結果を分析することで、職場環境の改善ポイントを発見できるでしょう。

  • 高ストレス者がとくに多い部署・チーム
  • おもなストレス要因(業務量・対人関係・仕事の裁量権など)

具体的な根拠をもとに職場環境の改善を図れば「働きやすい会社」として従業員からの評価が高まります。

SNSが普及している現代社会において、従業員のポジティブな評価は社外にも徐々に拡散されるでしょう。
ひいては、採用市場での優位性確保や、顧客からの信頼獲得につながります。

ストレスチェック義務化に対応する手順

ストレスチェックの導入手順を、以下5つのステップに分けて紹介します。

  1. 外部委託の有無を検討する
  2. 実施方針を定め、従業員に周知する
  3. ストレスチェックを実施する
  4. 結果を分析し、面接指導や職場環境改善に活かす
  5. 結果の保存管理を徹底する

義務化に向けて準備を進める際の参考にしてください。

1. 外部委託の有無を検討する

50人未満の事業場は、社内の人的リソースに制限があります。
労働者のプライバシーを保護するためにも、外部委託による実施を検討しましょう。

外部委託で依頼できる業務の一例は、以下のとおりです。

  • ストレスチェック実施者の手配
  • 調査票の準備・配布
  • ストレスチェックの実施
  • 結果の回収・集計・通知
  • 集団分析
  • 医師による面接指導の調整
  • 相談窓口の設置など

委託先によっては、請け負う業務が限定されるケースもあります。
包括的なサポートを提供しており、中長期的なパートナーとして協働できる業者を選定しましょう。

2. 実施方針を定め、従業員に周知する

ストレスチェックの実施に向けて、以下のような事項を決定しましょう。

  • ストレスチェックの実施者
  • 実施時期
  • 使用する調査票の種類
  • 高ストレス者の選定基準
  • 面接指導の申出方法
  • 面接指導の実施者
  • 結果の回収・集計・通知の方法
  • 高ストレス者への就業措置など

外部機関に実施を委託する場合でも、方針決定の責任は自社で負わなければなりません。
判断に迷う場合は、全国に設置されている産業保健総合支援センターへ相談するのも1つの方法です。

実施方針が決定したら、社内規程の整備や労働者への周知を進めます。

3. ストレスチェックを実施する

ストレスチェックの大まかな実施手順は、以下のとおりです。

  1. 労働者に調査票を配布し、記入を促す
  2. 記入済みの調査票を、実施者または実施事務従事者が回収する
  3. 回収結果をもとに、ストレスの度合いを評価する
  4. 高ストレスで医師の面接指導が必要な対象者を選ぶ
  5. 本人に結果を通知する

上記の一連の流れは、外部機関に委託できます。
人事権をもつ職員や第三者が記入済みの調査票を閲覧しないよう、十分に注意しましょう。

4. 結果を分析し、面接指導や職場環境改善に活かす

ストレスチェックの結果、医師による面接指導が必要だと判断された場合は、直接本人に通知が届きます。
面接指導は、本人の申し出がない限り実施されません。
制度の実効性を高めるために、面接指導を申し出やすくなるような環境作りが大切です。

面接指導では、医師が労働者の状況を確認し、必要な就業上の措置について意見します。
事業者は医師の提案を考慮し、労働時間短縮や業務内容変更などの措置を検討しましょう。

なお、ストレスチェックの結果を匿名化して集計・分析すれば、職場環境の改善にも活かせます。
ただし、50人未満の事業場では対象者が限られるため、個人が特定されないよう十分な配慮が必要です。

5. 結果の保存管理を徹底する

ストレスチェックの結果は、実施者または実施事務従事者が保存します。
外部委託の場合はデータの保管も一任できますが、自社内で実施する際は以下の内容を検討しましょう。

  • データの保管場所
  • データの保存期間
  • セキュリティ確保の方法(ログインパスワードや鍵の管理など)

労働者の同意があれば、結果は事業者にも提供されます。
共有されたデータは、事業者が5年間保存しなければなりません。

参考:ストレスチェック制度導入ガイド|厚生労働省

ストレスチェックを導入する際のポイント

以下のポイントを押さえておくと、ストレスチェックの導入がスムーズに進みやすくなります。

  • 中長期的な視点で体制を構築する
  • 拒否された際の対処法を把握しておく
  • 助成金の利用を検討する

それぞれ見ていきましょう。

中長期的な視点で体制を構築する

ストレスチェックを初めて導入する場合、準備には3~6ヶ月程度かかるとされています。
とくに、実施方針の決定や産業医・実施者の選任、社内規程の整備には、一定の時間を要することが一般的です。
外部委託することで準備期間は短縮できますが、余裕をもってスケジュールを組むことが大切です。

なお、初年度から完璧な整備を目指す必要はありません。
1年目はストレスチェック実施と面接指導の体制整備に注力し、2年目以降に本格的なデータ分析を取り入れてもよいでしょう。

拒否された際の対処法を把握しておく

50人未満の事業場は、ストレスチェックの対象者が少ないため、個人情報の管理に懸念が生じます。
「同僚や上司にメンタルヘルスの不調を知られたくない」と考え、受検を拒否する労働者も一定数存在するでしょう。

ストレスチェックへの回答は義務ではないため、受検や面接指導を強要することは認められません。
しかし、制度の実効性を高めるには、できる限り多くの労働者に受検してもらう必要があります。

受検を拒否する労働者がいることを前提に、結果の取扱いに関して説明機会を設けることが大切です。

  • 事前説明会を実施し、情報管理の体制を周知させる
  • 結果は事業者に共有されない旨を伝える
  • 実施者には守秘義務があることを説明する
  • あくまで「労働者のメンタルケア」が目的であることを伝える

受検を勧める際は、業務命令と受け取られないよう、十分な配慮が求められます。

助成金の利用を検討する

2025年現在、ストレスチェック関連の助成金で利用できる可能性があるのは「団体経由産業保健活動推進助成金」のみです。
事業主団体が傘下の企業に対して産業保健サービスを提供する場合、活動費用の一部が補助されます。

各企業ではなく、事業主団体が申請するタイプの助成金です。

対象となる産業保健サービスの一例 上限額(一定要件を満たす団体の上限額)
ストレスチェックの実施及び集団分析 60万円(120万円)
医師による面接指導・意見聴取 60万円(120万円)
医師や保健師などによる職場環境改善支援 130万円(260万円)

産業保健サービスの個別契約が困難な小規模事業者でも、団体の規模を利用して効率的に支援を受けられます。

2025年度は申請開始から2ヶ月弱で予算上限に達し、募集が終了しました。
利用を検討する場合は、2026年度の最新情報が公開され次第、早めに準備を進めておきましょう。

参考:団体経由産業保健活動推進助成金のご案内|厚生労働省

ストレスチェック義務化に関してよくある質問

ストレスチェックの義務化に関して、よく寄せられる質問事項をまとめました。

  • ストレスチェックの対象外となる労働者は?
  • ストレスチェックを実施しないと罰則がある?

回答を見ていきましょう。

ストレスチェックの対象外となる労働者は?

ストレスチェックの対象者は、雇用形態を問いません。
そのため、パートタイマーや契約社員でも、条件を満たせば受検対象となります。

一方で、以下の労働者はストレスチェックを実施しなくてもよいとされています。

  • 有期雇用労働者の一部(短時間労働者)
  • 海外の現地法人に在籍している労働者
  • 休職中の労働者
  • 内定者
  • 役員(実態により対象者となる場合あり)

ただし、経営層が率先してストレスチェックに参加すれば、制度の重要性を伝えやすくなるでしょう。
労働基準監督署には使用者の人数を除いて報告する必要があるものの、役員にも実施することが推奨されます。

ストレスチェックを実施しないと罰則がある?

ストレスチェックを実施しなかった場合でも、直接的な罰則はありません。
ただし、ストレスチェックと面接指導の実施状況を、労働基準監督署へ報告することが義務付けられています。

報告義務を怠った場合、労働安全衛生法にもとづいて50万円以下の罰金が課されるおそれもあります。

次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
引用:労働安全衛生法第120条|e-Gov法令検索

50人未満の事業場における罰則の有無は、現時点で明らかになっていません。
しかし、ストレスチェックの実施が義務化された以上、罰則が設けられることを前提に報告のノウハウを把握しておくべきでしょう。

まとめ:ストレスチェック義務化に向けて50人未満の企業は早期準備を

ストレスチェック義務化に対応することは、労働者の心身の健康を守ることはもちろん、企業の持続的な成長にも貢献します。
社内体制の整備には数ヶ月の期間を要するため、早めに準備を進めておくことが大切です。

法改正への対応や、就業規則の整備に不安がある方は、HRプラス社会保険労務士法人へご相談ください。
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コラム監修者

特定社会保険労務士

佐藤 広一(さとう ひろかず)

お問い合わせ

<資格>

全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号

東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号

<実績>

10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
経営法曹会議賛助会員

<著書・メディア監修>

M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上

TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演