• コラム

公開日:2025.12.19

更新日:2025.12.18

【2025年10月施行】育児・介護休業法の改正内容を企業向けに解説

2025年4月以降、順次施行されている改正育児・介護休業法。
10月1日からは「柔軟な働き方を実現するための措置」が開始されており、早急な社内環境の整備が求められます。

本記事では、今回の改正育児・介護休業法について、2025年4月〜10月施行内容の詳細や、企業に求められる対応を紹介します。
早期に対策を講じ、従業員の離職防止や企業価値の向上を図りましょう。

【育児関連】育児・介護休業法の改正ポイント

ここでは、育児・介護休業法の改正について、育児に関連する内容をまとめました。

施行期日 改正ポイント
2025年4月1日
  • 子の看護休暇の見直し
  • 所定外労働の制限の対象拡大
  • テレワークの推進
  • 育児休業取得状況の公表義務適用拡大
2025年10月1日
  • 柔軟な働き方を実現するための措置
  • 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮

詳細を見ていきましょう。

参考:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内|厚生労働省

1. 子の看護休暇の見直し(2025年4月〜)

子の看護休暇において、取得事由や対象となる子どもの範囲が拡大しました。

改正内容 2025年3月31日以前 2025年4月1日以降
対象となる子どもの範囲 小学校就学の始期に達するまで 小学校3年生修了まで
取得事由
  • 病気・けが
  • 予防接種・健康診断
  • 病気・けが
  • 予防接種・健康診断
  • 感染症に伴う学級閉鎖等
  • 入園(入学)式、卒園式
除外できる労働者
  • 週の所定労働日数が2日以下
  • 継続雇用期間6ヶ月未満
週の所定労働日数が2日以下
名称 子の看護休暇 子の看護等休暇

取得可能日数は1年間に5日間で、子どもが2人以上の場合は10日となります。

2. 所定外労働の制限の対象拡大(2025年4月〜)

所定外労働の制限(残業免除)の対象者が、以下のとおり拡大されました。

2025年3月31日以前 2025年4月1日以降
3歳未満の子を養育する労働者 小学校就学前の子を養育する労働者

労働者が残業免除を請求した際は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはなりません。
企業は、労働者が請求どおりに残業免除を受けられるよう、相当の努力をすることが大切です。

3. テレワークの推進(2025年4月〜)

育児中の労働者に対するテレワーク関連の改正は、以下の2点です。

改正内容 詳細
短時間勤務制度の代替措置の追加
  • 育児休業に関する制度に準ずる措置
  • 始業時刻の変更等
  • テレワーク
育児のためのテレワーク導入(努力義務) 3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講じること

3歳未満の子を養育する労働者が短時間勤務を希望しても、業務の性質上困難なケースもあるでしょう。
その際に提示すべき代替措置の1つとして、新たにテレワークの選択肢が加わりました。

4. 育児休業取得状況の公表義務適用拡大(2025年4月〜)

男性労働者の育休取得状況を公開しなければならない企業の範囲が、以下のとおり拡大しました。

2025年3月31日以前 2025年4月1日以降
従業員数1,000人超の企業 従業員数300人超の企業

公表内容は、以下いずれかの割合です。

  • 男性の育児休業等の取得率
  • 男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率

年に1回、インターネットなど一般の方が閲覧できる方法で公表します。
あわせて女性の育休取得状況も公表し、自社の実績をPRしましょう。

参考:2025年4月から、男性労働者の育児休業取得率等の公表が従業員が300人超1,000人以下の企業にも義務化されます|厚生労働省

5. 柔軟な働き方を実現するための措置(2025年10月〜)

企業は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下の中から2つ以上の措置を選択して講じる必要があります。

選択して講じるべき措置 詳細
始業時刻等の変更
  • フレックスタイム制
  • 時差出勤の制度
テレワーク等 1日の所定労働時間を変更せずに、月10日以上利用できるもの
保育施設の設置運営等
  • 保育施設の設置運営
  • ベビーシッターの手配・費用負担など
養育両立支援休暇の付与 1日の所定労働時間を変更せずに、年10日以上取得できるもの
短時間勤務制度 1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むもの

また、企業は3歳未満の子を養育する労働者に対し、上記の措置に関する意向確認を個別に行う必要があります。

参考:柔軟な働き方を実現するための措置|厚生労働省

6. 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮(2025年10月〜)

企業は以下のタイミングで、労働者の仕事と育児の両立に関する意向を個別に聴取する必要があります。

  • 労働者本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出たとき
  • 労働者の子が3歳になるまでの適切な時期

聴取の内容や方法は、以下のとおりです。

聴取内容 聴取の方法
  • 勤務時間帯(始業及び終業の時刻)
  • 勤務地(就業場所)
  • 両立支援制度等の利用期間
  • 就業条件(業務量、労働条件の見直しなど)
  • 面談(オンライン可)
  • 書面交付
  • FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • 電子メール(労働者が希望した場合のみ)

また、聴取した意向をふまえ、以下のように配慮することも義務付けられました。

  • 業務量を調整する
  • 勤務地を考慮して配置転換する
  • 制度の利用期間を見直すなど

意向聴取は、育休復帰時や労働者から希望があった際など、定期的に実施することが推奨されています。

【介護関連】育児・介護休業法の改正ポイント

今回の改正育児・介護休業法において、介護に関連する変更点は以下のとおりです。

施行期日 改正ポイント
2025年4月1日
  • 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
  • 介護離職防止のための雇用環境整備
  • 介護離職防止のための個別の周知・意向確認
  • 介護のためのテレワーク導入

それぞれ解説します。

参考:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内|厚生労働省

1. 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和(2025年4月〜)

介護休暇を取得できる労働者の範囲が、以下のとおり拡大しました。

改正内容 2025年3月31日以前 2025年4月1日以降
除外できる労働者
  • 週の所定労働日数が2日以下
  • 継続雇用期間6ヶ月未満
週の所定労働日数が2日以下

入社後間もない労働者でも、所定労働時間の基準を満たしていれば、介護休暇を取得できます。
労使協定で「勤続6ヶ月未満の労働者」を対象から除外している場合は、就業規則の見直しが必要です。

2. 介護離職防止のための雇用環境整備(2025年4月〜)

介護休業や介護両立支援制度等の申出を円滑化するために、雇用環境を整備することが義務付けられました。
具体的には、以下いずれかの措置を講じなければなりません。

  1. 介護休業・介護両立支援制度等に関して研修を実施する
  2. 介護休業・介護両立支援制度等に関して相談窓口を設置する
  3. 労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用事例を収集・提供する
  4. 介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針を、労働者に周知する

1〜4のうち、複数の措置を講じることが推奨されています。

3. 介護離職防止のための個別の周知・意向確認(2025年4月〜)

介護に直面した旨を申し出た労働者には、介護休業制度等に関する情報を提供し、利用の意向を個別に確認しなければなりません。

周知事項 周知・意向確認の方法
  • 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等の内容
  • 介護休業・介護両立支援制度等の申出先
  • 介護休業給付金に関すること
  • 面談(オンライン可)
  • 書面交付
  • FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • 電子メール(労働者が希望した場合のみ)

加えて「40歳を迎える労働者」に対しても、以下いずれかのタイミングで情報提供を行う必要があります。

  • 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)
  • 労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間

情報提供の際は、各制度の趣旨・目的を丁寧に説明することを心がけましょう。

4. 介護のためのテレワーク導入(2025年4月〜)

要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう、措置を講じることが事業主の努力義務として規定されました。
テレワークが適さない職種もあるため、全企業でただちに導入する必要はありません。

厚生労働省は、企業に求められる対応のポイントとして、以下の7つをあげています。

  • 必ずしもICTを利⽤する業務に限定する必要はない
  • 実施場所はサテライトオフィスも含む
  • テレワークが困難な場合に、配置転換や職種の新設を義務付けるものではない
  • 内容や頻度などの基準は設けていない
  • 対象労働者の性別を限定するなどの措置は認められない
  • 深夜勤務や長時間労働によって労働者が心身の健康を害することのないよう、適正な労務管理に努めること
  • 過去に介護休業を取得した労働者も、努力義務の対象に含まれる

介護中の労働者が働き続けられるよう、柔軟な勤務体制を整備することが大切です。

参考:育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説|厚生労働省

育児・介護休業法の改正を受けて企業が行うべき対応

仕事と家庭の両立支援は、企業の能動的な取り組みなしには実現しません。
ここでは、経済産業省が提供しているガイドラインをもとに、企業が講じるべき対策の具体例を紹介します。

  • 経営層を巻き込み推進体制を整備する
  • 社内の実態を把握する
  • 効果的な情報提供手段を検討する
  • 自社独自の取り組みを充実させる
  • 外部への情報発信で企業価値の向上を図る

詳細を見ていきましょう。

参考:介護両立支援のアクション経営者向けガイドライン|経済産業省

経営層を巻き込み推進体制を整備する

もっとも大切なポイントは、経営層が育児や介護について深く理解することです。
そのうえで、トップが先導して措置を講じることで、職場全体に「仕事と家庭の両立」を支援する雰囲気が醸成されます。

具体的には、以下のような取り組みが有効です。

  • 社内報などで経営陣からのメッセージを発信する
  • 幹部社員を中心に「両立支援推進委員会」を設置する
  • 各部署に両立支援推進の担当者を設置するなど

経営層を巻き込んだ形で推進体制を整備できるよう、人事労務担当者の方には主体的な働きかけが求められます。

社内の実態を把握する

実効性のある推進計画を立案するためには、社内の現状を正確に把握する必要があります。
全社アンケートや個別聴取を通じて、以下のような事項を確認することが大切です。

  • 育児・介護発生の可能性
  • 被介護者の要介護度や同居の有無
  • 業務への具体的な影響など

会社の中核を担う30代~50代は、もっとも家庭と仕事の両立が困難な年代だといえます。
育児や介護によって自身のキャリアに懸念を抱く労働者も多いため、人事制度を改めて見直すことも必要になるでしょう。

効果的な情報提供手段を検討する

両立支援の推進を阻む理由の1つが、労働者の知識不足です。
制度の必要性に迫られた労働者が自ら情報収集しなければ、両立支援の存在を認知できないケースも少なくありません。

とくに介護は将来的にすべての労働者に生じ得る問題であるため、今後は「プッシュ型」の情報提供が必要になるでしょう。
効果的な取り組みの具体例は、以下のとおりです。

  • 自社独自のパンフレットを作成する
  • 国や自治体が提供する資料を社内に掲示する
  • 相談窓口(地域包括支援センターなど)の存在を周知させる
  • 行政が提供している研修を周知させ、参加を促すなど

とくに、管理職層への情報提供や研修は、組織の制度利用を推進するうえで極めて重要です。

自社独自の取り組みを充実させる

自社のリソースや業務内容をふまえ、持続可能な社内制度を整備する必要があります。
育児・介護休業法で義務付けられている措置に加え、企業独自の取り組みを進めましょう。

民間企業の取り組み事例を一部紹介します。

企業 取り組み内容
サイボウズ株式会社 子どもの預け先がないときに「子連れ出勤制度」を利用できる
ソニーグループ株式会社 専門窓口で、介護とファイナンシャルプランニングの両面を個別相談できる
株式会社ペンシル 「介護と仕事の両立セミナー」を実施し、介護経験者から困難だったこと、工夫したことを全従業員へ共有してもらう

施策を講じる際は、全社アンケートなどで労働者にフィードバックをもらい、効果検証を行うことが大切です。

外部への情報発信で企業価値の向上を図る

両立支援の取り組みに関する情報を社外に発信することで、人材確保や企業ブランディングの面で優位性の確保につながります。
実際に企業が行っている情報発信の一例は、以下のとおりです。

企業 取り組み内容
大成建設株式会社 「介護との両立を推進する取り組みを経営に活かすことは、事業の成長と企業価値向上につながる」旨を有価証券報告書に明記
オムロン株式会社 仕事と介護の両立支援に関する取り組みや、介護休職制度利用者数をホームページで開示
キユーピー株式会社 「出産・育児支援の取り組み」を企業サイトに明記

社外の反応や評価を得ることで、自社の事業活動へもポジティブな効果が期待できるでしょう。

まとめ:自社にマッチした制度運用で育児・介護休業法改正に対応

2025年4月1日から、段階的に改正育児・介護休業法が施行されています。
企業に求められることは、全従業員が育児・介護と仕事の両立を実現できる、社内環境の構築です。

両立支援に積極的に取り組みたい方は、HRプラス社会保険労務士法人へご相談ください。
くるみん申請サポートや研修の実施、周知のための資料作成など、貴社のご要望に合わせて幅広いサポートを提供します。

コラム監修者

特定社会保険労務士

佐藤 広一(さとう ひろかず)

お問い合わせ

<資格>

全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号

東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号

<実績>

10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
経営法曹会議賛助会員

<著書・メディア監修>

M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上

TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演