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公開日:2025.12.19

更新日:2025.12.18

【2025年〜2028年施行】雇用保険法の改正内容を分かりやすく解説

2025年4月から、雇用保険法の改正が段階的に施行されています。
高年齢雇用やリスキリング推進、育児支援など、制度変更の内容は多方面に及びます。
改正内容を周知することはもちろん、社内制度の整備も計画的に進めることが大切です。

本記事では、雇用保険法の改正内容について、主要なポイントや企業の取るべき対策をまとめました。
最新情報をキャッチアップしたい人事労務担当者の方に向けて、厚生労働省の公表情報を分かりやすく解説します。

【一覧】2025年〜2028年の雇用保険法改正まとめ

まずは、2025年〜2028年にかけて施行される雇用保険法の改正内容をまとめて紹介します。

見直し内容 施行期日
自己都合離職者の給付制限期間が原則1ヶ月に短縮 2025年4月1日
高年齢雇用継続給付の支給率上限を10%に引き下げ
育児休業給付の給付率引き上げ
育児時短就業給付の創設
就業手当の廃止、就業促進定着手当の上限を20%に引き下げ
教育訓練休暇給付金の創設 2025年10月1日
雇用保険の加入対象者が「週20時間以上」から「週10時間以上」に

労働者が制度の内容を知らないと損をする可能性があるため、社内への周知を徹底する必要があります。

【2025年4月〜】自己都合離職者の給付制限の見直し

従来の制度では、自己都合で離職した場合の基本手当(失業給付)の受給ルールは以下のように定められていました。

改正前(2025年3月31日以前)
待期 7日間
給付制限期間
  • 待期の翌日から原則2ヶ月間
  • 5年間のうちに2回以上自己都合退職し、受給資格決定を受けた場合は3ヶ月間
給付制限の解除要件 ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練などを受講すること

ここでは、2025年4月以降に適用されている新ルールの詳細を見ていきましょう。

  • 改正ポイント:給付制限期間が原則1ヶ月に短縮
  • 企業の対応:失業給付の円滑な受給に向けた環境整備

詳細を解説します。

参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~|厚生労働省

改正ポイント:給付制限期間が原則1ヶ月に短縮

2025年4月1日以降、自己都合離職者の給付制限期間が原則1ヶ月に短縮されています。
ただし、5年以内に3回以上自己都合退職した場合は、従来どおり3ヶ月間の給付制限が課されるため注意しましょう。

改正後(2025年4月1日以降)
待期 7日間
給付制限期間
  • 待期の翌日から原則1ヶ月間
  • 5年間のうちに3回以上自己都合退職し、受給資格決定を受けた場合は3ヶ月間
給付制限の解除要件 離職期間中や離職日前1年以内に、自ら教育訓練を受講する

改正後は自己都合離職であっても、自ら職業訓練を受講すると給付制限が解除されます。

参考:令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます
参考:職業訓練や助成金などを活用 全世代リ・スキリングのすすめ|厚生労働省

企業の対応:失業給付の円滑な受給に向けた環境整備

給付制限の短縮によって離職率が高まれば、雇用の流動性が一層推し進められるでしょう。人材確保の面で懸念はありますが、リ・スキリングの促進によって労働生産性の向上を期待できる側面もあります。

企業には、労働者一人ひとりが働きやすい社内環境の整備や、スキル向上を支援する施策の立案が求められます。

社内環境の整備
  • 仕事と家庭の両立支援(休業規定の整備など)
  • 有期雇用労働者の処遇改善など
スキル向上の支援
  • 社内公募制度の導入
  • 在職中の教育訓練受講の支援など

制度の周知を徹底することはもちろん、安易な離職を防止する対策も同時に検討しましょう。

【2025年4月〜】高年齢雇用継続給付の支給率変更

従来の高年齢雇用継続給付制度では、賃金が減少した高年齢労働者に対し、一定割合の給付金が支給されていました。

改正前(2025年3月31日以前)
賃金低下率:61%以下 各月に支払われた賃金額の15%
賃金低下率:61%超75%未満 各月に支払われた賃金額の15%から0%(賃金と給付額の合計が75%を超えない範囲で設定される率)
賃金低下率:75%以上 不支給

改正の背景には、65歳までの雇用確保が法的に進展し、給付金による経済的支援の必要性が低下したことがあげられます。

  • 改正ポイント:支給率上限を10%に引き下げ
  • 企業の対応:高年齢労働者の賃金・待遇の見直し

詳細を見ていきましょう。

参考:令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します|厚生労働省

改正ポイント:支給率上限を10%に引き下げ

2025年4月以降、高年齢者雇用継続給付の支給率上限が10%に引き下げられています。

改正後(2025年4月1日以降)
賃金低下率:64%以下 各月に支払われた賃金額の10%
賃金低下率:64%超75%未満 各月に支払われた賃金額の10%から0%(賃金と給付額の合計が75%を超えない範囲で設定される率)
賃金低下率:75%以上 不支給

改正後の支給率が適用されるのは、2025年4月1日以降に60歳に達した方です。
2025年3月31日以前に60歳を迎えた方は、改正前の支給率(上限15%)が適用されます。

企業の対応:高年齢労働者の賃金・待遇の見直し

2025年4月には「65歳までの雇用確保」もあわせて義務化されました。
企業は、高年齢者が給付金を受け取らなくても働き続けられるよう、以下のような施策を検討しなければなりません。

  • 賃金テーブルの維持
  • 従業員別の健康管理の実施
  • 職務変更に応じた研修・資格取得支援など

社内環境整備の際は、就業規則の変更・修正や、労働基準監督署への届け出もあわせて行いましょう。

参考:65歳までの「高年齢者雇用確保措置」|厚生労働省
参考:65歳超雇用推進事例集|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構

【2025年4月〜】育児休業給付の給付率引き上げ

雇用保険の被保険者が育児休業を取得すると、休業開始から通算180日までは賃金の67%、180日経過後は50%が支給されます。
今回の改正では、育児休業の給付率が実質的に引き上げられました。

  • 改正ポイント:出生後休業支援給付の新設
  • 企業の対応:男性が育休を取得しやすい仕組み作り

それぞれ見ていきましょう。

改正ポイント:出生後休業支援給付の新設

2025年4月、育児休業給付金とあわせて支給される「出生後休業支援給付金」が創設されました。
子の出生直後に夫婦それぞれ14日以上の育児休業を取得した場合に支給され、実質的な給付率の引き上げとなります。

出生後休業支援給付金の支給額は、以下のとおりです。

支給額=休業開始時賃金日額×休業期間の日数(上限28日)×13%

既存の育児休業給付金と合わせると、給付率は80%となります。
育児休業等給付は非課税で、社会保険料も免除されるため、実質的に手取り額の10割が補償される仕組みです。

参考:2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設しました|厚生労働省

企業の対応:男性が育休を取得しやすい仕組み作り

今回の法改正には、とくに男性の育児休業取得を促進する目的があります。
実際によい結果が出ている企業では、以下のような取り組みが実施されています。

  • 管理職の意識改革研修
  • 育児休業の周知啓発(育休取得者のインタビュー・法改正内容の全体共有など)
  • 育休取得者と同じチームで働く従業員に「子育て休業サポート手当」を支給

ただし、育児休業給付には支給上限額が設定されているため、周知の際には誤解を生まないよう配慮が必要です。

参考:育児休業取得企業好事例集|厚生労働省

【2025年4月〜】育児時短就業給付の創設

2025年4月、育児中の時短勤務による収入減を補填するための制度として「育児時短就業給付金」が創設されました。
対象者は、2歳未満の子を養育する時短勤務中の雇用保険被保険者です。

ここでは、制度の詳細や対応のポイントを解説します。

  • 改正ポイント:時短勤務中の収入減少分を補填
  • 企業の対応:対象従業員への周知徹底

詳細を見ていきましょう。

改正ポイント:時短勤務中の収入減少分を補填

育児時短就業中に支払われた賃金額の10%相当額が「育児時短就業給付金」として支給されます。
ただし、以下の条件にあてはまる場合は支給対象外となります。

  • 支給対象月の賃金額が、育児時短就業前の賃金水準と比べて低下していない
  • 支給対象月の賃金額が、支給限度額(47万1,393円)以上である
  • 支給額が最低限度額(2,411円)以下である

支給対象期間は、育児時短就業を開始した日の属する月から、育児時短就業を終了した日の属する月までです。

参考:2025年4月から「育児時短就業給付金」を創設しました|厚生労働省

企業の対応:対象従業員への周知徹底

育児時短就業給付によって、労働者は育休復帰後に時短勤務を選びやすくなります。
育児を理由とした離職の防止が期待できるため、企業にとってもメリットのある制度といえるでしょう。

育休取得者には制度の個別周知を徹底しつつ、社内報などを通じて全社員に情報を公開しましょう。
あわせて、就業規則にも短時間勤務に関する規定を整備しておくことが推奨されます。

【2025年4月〜】就業手当の廃止、就業促進定着手当の上限引き下げ

2025年4月1日に、一定の条件下で再就職した際に支給される手当が一部廃止・減額されました。
見直し内容の詳細は、以下のとおりです。

手当 2025年3月31日以前 2025年4月1日以降
就業手当 失業者が「所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上」を残して再就職した場合、就業日ごとに基本手当日額の30%相当額を支給 廃止
就業促進定着手当 失業給付受給者が早期に再就職した際、前職の賃金から低下した分を補填する
給付額=基本手当日額×40%×支給残日数
給付額=基本手当日額×20%×支給残日数

支給実績や労働力人口の不足などをふまえ、制度の必要性が再検討された結果、今回の廃止・減額につながりました。

参考:令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

【2025年10月〜】教育訓練中の生活を支える給付の創設

労働者の主体的な能力開発を支援する目的で「教育訓練休暇給付金」が創設されました。
以下では、制度の特徴や企業に求められる対応を解説します。

  • 改正ポイント:教育訓練に失業給付と同等の金額を支給
  • 企業の対応:リスキリングを支援する休暇制度の整備

それぞれ見ていきましょう。

改正ポイント:教育訓練に失業給付と同等の金額を支給

雇用保険被保険者が教育訓練を受けるために休暇を取得した場合、訓練期間中の生活を支えるための給付金が支給されます。
支給額は、基本手当(失業給付)に相当する金額です。

項目 内容
対象者 雇用保険の一般被保険者(在職中の方)
支給タイミング 休暇の開始日から起算して30日ごと
給付額 離職した際の基本手当と同様の金額(賃金日額の約50~80%)
給付日数 90日〜150日(加入期間によって変動)

教育訓練休暇給付金を受給した場合、雇用保険の被保険者期間はリセットされます。
一定期間は雇用保険にもとづく給付金(失業給付など)を原則受給できないため、労働者にその旨を周知する必要があります。

参考:教育訓練休暇給付金のご案内|厚生労働省

企業の対応:リスキリングを支援する休暇制度の整備

企業には、無給の教育訓練休暇制度の整備が求められます。
労働者のスキルアップは組織全体の生産性向上につながるため、企業にとってもメリットのある制度です。

制度を導入する際は、以下のポイントを明確化する必要があります。

  • 制度の対象者
  • 取得時の手続き方法
  • 休暇の期間
  • 休暇中の処遇(福利厚生など)

就業規則の規定に迷う場合は、必要に応じて専門家へ相談しましょう。

【2028年10月〜】雇用保険の適用拡大

2028年10月から、雇用保険の被保険者となる要件が大幅に緩和される見込みです。
働き方の多様化が進展していることを考慮し、雇用のセーフティネットを拡大する目的があります。

見直し内容の詳細を見ていきましょう。

  • 改正ポイント:週10時間以上勤務する労働者も加入対象に
  • 企業の対応:対象者の洗い出しや企業負担分の見積もり

それぞれ解説します。

改正ポイント:週10時間以上勤務する労働者も加入対象に

雇用保険被保険者の要件のうち、週所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更され、適用対象が拡大します。
それに伴い、以下の基準もそれぞれ現行の「2分の1」に改正されます。

項目 改正前 改正後
被保険者期間の算定基準 賃金支払基礎日数が「11日」以上または労働時間数が「80時間」以上ある月を1月とする
  • 11日→6日
  • 80時間→40時間
失業認定基準 1日の労働時間が「4時間」未満の場合は失業日と認定 4時間→2時間
法定の賃金日額の下限額 給付率が80%となる点の額の「2分の1」 2分の1→4分の1
最低賃金日額 最低賃金で「週20時間」働いた場合を基礎として設定 週20時間→週10時間

新たに加入対象となる労働者は保険料の負担が発生するものの、雇用保険にもとづく給付金を受給できるようになります。

参考:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要

企業の対応:対象者の洗い出しや企業負担分の見積もり

2028年10月には、雇用保険の加入対象となる労働者が一気に増加します。
以下の対応を早めに進めておくことが大切です。

  • 対象労働者の洗い出し
  • 保険料の企業負担分の見積もり
  • 対象労働者への加入案内
  • 「雇用保険被保険者資格取得届」の提出準備など

システム導入や設定変更も必要になるため、専門家と連携して業務負担の少ない仕組み作りを推進しましょう。

まとめ:雇用保険法の改正は2025年から順次施行

雇用保険法の改正は、2028年にかけて順次施行されます。
見直し内容が多岐に渡るため、社内規定の整備や労働者への周知など、準備を早めに進めましょう。

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コラム監修者

特定社会保険労務士

佐藤 広一(さとう ひろかず)

お問い合わせ

<資格>

全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号

東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号

<実績>

10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
経営法曹会議賛助会員

<著書・メディア監修>

M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上

TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演