障害者雇用促進法では、障害者の就労機会拡大に向けて、雇用に関する企業の義務などが定められています。
違反した場合には納付金の徴収や行政指導が行われるため、改正内容を正しく把握しておくことが大切です。
本記事では、障害者雇用促進法の基礎知識や2025年の改正内容、雇用すべき障害者の算出方法などを解説します。
企業の対応ポイントもまとめていますので、社内体制を整備したい人事労務担当者の方は参考にしてください。
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、障害者の職業安定を図ることを目的とした法律です。
職業リハビリテーションの推進や差別の禁止、対象労働者の雇用義務などについて定められています。
一定規模の企業には、以下の障害者を「法定雇用率」以上の割合で雇用する義務があります。
| 分類 | 条件 |
|---|---|
| 身体障害者 |
|
| 知的障害者 |
|
| 精神障害者 | 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方 |
障害者手帳を有していない障害者は、原則として法定雇用率の算定対象外です。
ただし、障害者手帳の有無にかかわらず、さまざまな困難を抱えた方が働きやすい職場作りを目指すことが求められます。
【2025年】障害者雇用促進法の改正ポイント
障害者雇用促進法について、2025年時点で施行されている改正内容や、今後の見通しについて解説します。
- 法定雇用率の段階的な引き上げ
- 除外率制度の見直し
- 雇用率に算入できる対象者の見直し
- 事業主支援の強化
それぞれ見ていきましょう。
法定雇用率の段階的な引き上げ
障害者雇用促進法で規定される法定雇用率は、雇用状況の推移などを考慮して、定期的に見直しが図られています。
厚生労働省は、今後の引き上げ方針を以下のように発表しています。
| 項目 | 現行 | 2026年7月以降 |
|---|---|---|
| 民間企業の法定雇用率 | 2.5% | 2.7% |
| 対象事業主の範囲 | 従業員数40人以上 | 従業員数37.5人以上 |
たとえば常時雇用している労働者が100人の企業の場合は、2人以上の障害者を雇用する義務があります。
雇用すべき障害者数=100人×2.5%=2.5人=2人(小数点以下切り捨て)
対象事業主の範囲も拡大するため、これまで対象外であった企業も、障害者雇用に本格的に取り組む必要があります。
参考:障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~|厚生労働省
除外率制度の見直し
障害者雇用が困難な特定の業種では、法定雇用率の軽減が適用されています。
2025年4月1日、除外率が設定されているすべての業種で、一律「10ポイント」の除外率引き下げが行われました。
| 除外率設定業種 | 除外率 |
|---|---|
| 非鉄金属第一次精錬・精製業、貨物運送取扱業 | 5% |
| 建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業 | 10% |
| 港湾運送業、警備業 | 15% |
| 鉄道業、医療業、高等教育機関、介護老人保健施設、介護医療院 | 20% |
| 林業 | 25% |
| 金属鉱業、児童福祉事業 | 30% |
| 特別支援学校 | 35% |
| 石炭・亜炭鉱業 | 40% |
| 道路旅客運送業、小学校 | 45% |
| 幼稚園、幼保連携型認定こども園 | 50% |
| 船員等による船舶運航等の事業 | 70% |
除外率が設定されている企業は、従来よりも雇用する障害者を増やさなければなりません。
除外率は「完全廃止」に向け、今後も段階的に縮小される見込みです。
参考:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について|厚生労働省
雇用率に算入できる対象者の見直し
2024年4月から、これまで対象外とされていた一部の短時間労働者を、雇用率に算入できるようになりました。
新たにカウント対象となったのは「週所定労働時間10時間以上20時間未満」で勤務する、以下の障害者です。
- 精神障害者
- 重度身体障害者
- 重度知的障害者
長時間労働が困難な障害者を積極的に受け入れることで、法定雇用率を達成しやすくなったといえます。
事業主支援の強化
2024年4月以降は、障害者雇用に励む企業を支援するために、以下の取り組みが始まっています。
| 支援策 | 詳細 |
|---|---|
| 障害者雇用相談援助事業 | 障害者の雇い入れや雇用継続に関する問題点を、原則無料で相談できる |
| 助成金の拡充・新設 |
|
障害者雇用に取り組む企業は、各種助成金や人的支援など、さまざまな支援制度を利用できます。
サポートを実施している機関は多岐にわたるため、詳細はハローワークや社会保険労務士へ相談しましょう。
企業が雇用すべき障害者のカウント方法
雇用率の算定時は、障害者数を以下のルールにもとづいてカウントします。
| 週あたりの労働時間 | 障害種別・程度 | カウントルール |
|---|---|---|
| 常時雇用労働者 (週30時間以上) |
重度障害者 | 2人 |
| その他の障害者 | 1人 | |
| 短時間労働者 (週20時間以上30時間未満) |
重度障害者・精神障害者 | 1人 |
| 身体障害者・知的障害者 | 0.5人 | |
| 特定短時間労働者 (週10時間以上20時間未満) |
重度障害者・精神障害者 | 0.5人 |
| 身体障害者・知的障害者 | 0人 |
カウントルールの詳細を、労働時間区分ごとに解説します。
常時雇用労働者(週30時間以上)
1週間の所定労働時間が週30時間以上の常勤労働者は、障害者の人数どおりにカウントします。
重度身体障害者と重度知的障害者は、1人を2人として計算可能です。
たとえば、従業員数150人の企業が雇用すべき障害者の数は「150人×2.5%=3.75人=3人」です。
重度障害者を常時雇用で1人採用したとすると、その他の障害者をもう1人雇用することで目標の法定雇用率を達成できます。
短時間労働者(週20時間以上30時間未満)
1週間の所定労働時間が週20時間以上30時間未満の従業員は、短時間労働者に該当します。
短時間労働者である障害者は「0.5人」としてカウントするのが原則ですが、重度障害者と精神障害者は1人として計算可能です。
雇用すべき障害者の人数が「2人」の企業を例にあげ、雇用パターンを考えてみましょう。
| 身体障害者・知的障害者 | 精神障害者・重度障害者 |
|---|---|
| 4人 | 0人 |
| 2人 | 1人 |
| 0人 | 2人 |
常勤労働者を組み合わせると、さらに多くのパターンを検討できます。
精神障害者は当初「特例」扱いでしたが、2023年4月に算定特例が延長され、当面の間は上記のルールでカウントできます。
特定短時間労働者(週10時間以上20時間未満)
2024年4月以降、週10時間以上20時間未満で勤務する重度障害者・精神障害者は、雇用率上0.5人としてカウントできます。
特定短時間労働者であるその他の障害者は、法定雇用率算定の対象外となります。
さらに、週10時間未満の勤務では、すべての障害者がカウントされないため注意しましょう。
障害者雇用義務に違反した際のペナルティ
障害者の雇用義務(法定雇用率)を達成できない場合は、各企業に以下のペナルティが課されます。
- 障害者雇用納付金の徴収
- 雇用状況改善に向けた行政指導
- 企業名の公表
詳細を見ていきましょう。
障害者雇用納付金の徴収
従業員数100人超の企業が法定雇用率を達成できなかった場合は「障害者雇用納付金」を納める必要があります。
徴収額は、障害者1人の不足につき月額5万円です。
納付金は、企業間の経済的負担を調整する目的で利用され、実雇用数が法定雇用数に達している企業は調整金や報酬金が支給されます。
納付金を支払ったからといって、障害者の雇用義務を逃れられるわけではありません。
なお、従業員数100人以下の企業は、法定雇用率が未達成であっても納付金の支払い義務は課されません。
参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構|令和7年度 障害者雇用納付金制度記入説明書
雇用状況改善に向けた行政指導
企業は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況を、ハローワークや労働局に報告しなければなりません。
法定雇用率が未達成であり、かつ以下いずれかの条件にあてはまる企業は、2年間「障害者雇用作成計画書」の作成を命じられます。
- 実雇用率が全国平均未満で、かつ不足数が5人以上
- 実雇用率に関係なく、不足数が10人以上
- 雇用義務数が3〜4人の企業で、雇用障害者数が0人
計画実施後の雇用状況が改善しない場合、厚生労働省による9ヶ月間の特別指導が行われます。
企業名の公表
行政の特別指導を受けても雇用状況が改善されない場合は、障害者雇用促進法第47条などにもとづき企業名が公表されます。
2022年には、特別指導を受けた55社のうち、改善が依然として見られない5社の企業名が公表されました。
各企業の会社概要や公表までの経緯、雇用状況の推移などの情報とあわせて、厚生労働省がプレスリリースとして発表しています。
企業の社会的信用を著しく損なうおそれがあるため、目標を達成できなかった場合でも、特別指導の段階で改善を図ることが大切です。
参考:障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について|厚生労働省
障害者雇用促進法の改正を受けて企業がすべきこと
障害者雇用促進法の改正により、企業の負担は増加しています。
より実効性のある対応が求められるため、以下のポイントを意識して社内体制の整備を進めましょう。
- 現状をふまえた業務設計の見直し
- 雇用計画の策定・採用手法の検討
- 合理的配慮を提供するための環境整備
- 定着状況の把握と支援策の導入
それぞれ解説します。
現状をふまえた業務設計の見直し
まずは、法定雇用率算出のルールを確認のうえ、自社の障害者雇用の状況を正確に把握しましょう。
2026年7月に予定されている法定雇用率「2.7%」への引き上げに向けて、雇用計画を改めて立案する必要があるためです。
以下の内容を明確化しておくと、持続可能な障害者雇用を実現しやすくなります。
- 迎え入れるべき障害者の数
- 障害特性ごとの配属先
- 障害者に依頼する業務内容
- 育成体制(担当者、マニュアル策定など)
現状で任せられる業務がない場合は、新たな業務の創出や、既存業務の部分的な切り出しも検討しましょう。
たとえば事務部門の場合は、書類の整理やデータ入力などの業務を切り出し、定型業務を得意とする障害者に割り当てるのも有効です。
雇用計画の策定・採用手法の検討
雇用計画を策定する際は「いつまでに」「何人の障害者を」「どのような勤務形態で」採用するか、目標を定めましょう。
目標が明確になったら、採用したい人材に適した募集方法を決定します。
代表的な募集方法は、以下のとおりです。
- ハローワークで求人にマッチした障害者を紹介してもらう
- 特別支援学校に求人情報を提供する
- 就労移行支援事業所と関係性を構築する
- 障害者向けの合同説明会に参加する
業務や合理的配慮の内容、勤務時間の柔軟性など、障害者の応募ハードルが下がる情報を積極的に提供しましょう。
合理的配慮を提供するための環境整備
障害者の定着率を向上させるためには、社内環境と体制の整備が欠かせません。
障害種別ごとに、合理的配慮の具体例をまとめました。
| 障害種別 | 合理的配慮の具体例 |
|---|---|
| 身体障害 |
|
| 精神障害 |
|
| 知的障害 |
|
配慮すべき事項は、障害種別や障害特性によって大きく異なります。
採用面接時はもちろん、入社後も都度本人と十分に話し合い、合意を形成することが大切です。
定着状況の把握と支援策の導入
障害者雇用は、定着支援がとくに重要です。
まずは自社の離職率を確認し、課題がある場合は原因を精査しましょう。
障害者の定着率が悪化する原因の中で、とくによくある事例は以下のとおりです。
- 求める人物像と、採用した障害者の実態に乖離がある
- 必要な合理的配慮について障害者と十分に話し合えていない
- 障害者の能力と業務内容がマッチしていない
- ほかの従業員が障害者に対する理解が浅いなど
従業員の意見がとおる環境を整備することで、障害者が働きやすい職場を目指せます。
まとめ:障害者雇用促進法の改正をふまえて社内制度の調整を
障害者雇用促進法は、社会情勢や障害者雇用の推移などを考慮して、定期的に見直しが図られています。
雇用率の引き上げや除外率の縮小によって負担が増加している企業は、公的機関や専門家のサポートを受けるのもおすすめです。
HRプラス社会保険労務士法人では、さまざまな人事労務上の問題に対し、専門的な見地からアドバイスを提供しています。
24時間以内のレスポンスでご相談に対応しますので、障害者雇用に課題を感じている企業さまはお気軽にお問い合わせください。
コラム監修者
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演






