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公開日:2026.04.13

更新日:2026.04.13

事業譲渡と株式譲渡の違いを徹底解説!M&Aで選ぶべき基準とメリット

事業譲渡と株式譲渡は、同じM&Aでも「何を」「誰から誰へ」譲るのかが違い、必要手続きや引継ぎ後のリスク、税金のかかり方まで大きく変わります。
資産・負債の承継範囲、許認可や取引契約の引き継ぎ、従業員の雇用契約に加え、売り手・買い手それぞれのメリット/デメリットも把握しておくことが重要です。

本記事では比較ポイント、税務・会計の要点、選び方の判断軸、手続きの流れとQ&Aをまとめて解説します。

事業譲渡と株式譲渡の決定的な違いとは?4つの比較ポイント

事業譲渡と株式譲渡はM&Aでよく使われますが、譲る対象や手続き、引継ぎ後のリスクが異なります。
事業だけを切り出すのか、会社ごと移すのかで最適解は変わるため、事前に比較が欠かせません。
ここでは4つの観点で違いを整理します。

取引主体の違い(法人か株主個人か)

事業譲渡は会社(法人)が売主となり、特定の事業や資産・負債を選んで売買する一方で、株式譲渡は株主が株式を売却し、株主構成の変更により経営権を買主へ移します。

事業の一部だけを動かしたいのか、会社ごと引き継いでほしいのかを整理したうえで判断しましょう。

譲渡対象となる資産・負債の範囲

事業譲渡は設備や在庫、知的財産、契約などについて引き継ぐものと残すものを個別に定められます。
不採算部門や不要資産、特定の負債を除外できる一方で、対象の特定や名義変更などの手間が増えるのが特徴です。

株式譲渡は会社そのものを引き継ぐため、原則として会社の資産・負債が包括的に移り、簿外債務や偶発債務の確認が重要になります。

許認可や取引先との契約の引き継ぎ方

事業譲渡では許認可や契約が自動移転しないため、譲受企業が改めて取得や再契約を行う必要があります。
手続きが遅れると事業開始や取引再開に影響する可能性があります。

株式譲渡は会社の主体が変わらないため契約や許認可は原則継続しますが、株主変更に関する条項の有無は事前確認が必要です。

従業員の雇用契約の取り扱い

事業譲渡では雇用契約が自動承継されないため、承継対象の従業員ごとに同意を得て新たな契約を結ぶ必要があります。

一方、株式譲渡では会社が存続するため雇用契約や労働条件は原則維持されます。

処遇や配属の方針を丁寧に説明し、円滑な引き継ぎを図ることが重要です。

株式譲渡の基礎知識と得られるメリット・デメリット

株式譲渡とは、中小M&Aで用いられる代表的な手法の一つで、株主から買い手へ株式を移転することで経営権ごと会社を引き継ぎます。
会社自体は存続するため、契約や許認可、従業員の雇用関係は原則継続し、取引関係の維持が図りやすい点が評価されています。

以下で、売り手側と買い手側のメリット・デメリットを見ていきましょう。

売り手企業のメリットとデメリット

売り手の主なメリットは、会社全体を一括で譲渡できることです。
経営権や資産・負債、契約関係を包括的に移せるため、分割的な手続きに比べて負担を抑えやすいといえます。

また、譲渡対価は株主個人の収入となる点も利点です。
一方で、買い手からは簿外債務や訴訟リスクの有無について厳格な調査や表明保証を求められる場合があります。
株主構成が複雑な場合は、合意形成に時間を要する点も留意が必要です。

買い手企業のメリットとデメリット

買い手のメリットは、全株式を取得すれば経営権を迅速に掌握でき、組織や取引基盤を維持したまま事業を継続できることです。
個別契約の再締結が原則不要で、統合作業を効率化しやすい利点があります。

他方、会社に内在する簿外債務や偶発債務、過去の法的リスクも承継する可能性があります。
そのため、デューデリジェンスによる事前調査と契約上のリスク分担設計が重要です。

事業譲渡の基礎知識と得られるメリット・デメリット

事業譲渡とは、会社が営む事業のうち特定部門や関連資産・負債を選んで売却できる方法です。
会社全体ではなく、赤字部門のみを切り離す、特定店舗のみを譲渡するなど柔軟な設計が可能です。

また、どの契約や従業員を承継するかも個別に定められるため、必要な範囲だけを移転できます。
ただし、許認可や取引契約は原則自動承継されないため、再取得や承諾手続きが必要となる点に注意が必要です。

以下で、売り手側と買い手側それぞれのメリット・デメリットを解説します。

売り手企業のメリットとデメリット

売り手にとっての主なメリットは、不要事業のみを切り離し、主力事業を残せる点です。
負債やリスクの範囲も設計できるため、財務体質の改善や経営資源の集中につなげやすいといえます。

一方で、譲渡対象資産の特定や契約移転、従業員の同意取得など個別手続きが多く、実務負担は大きくなります。

買い手企業のメリットとデメリット

買い手のメリットは、必要な事業や資産のみを選択して取得できる点です。

簿外債務や不要な負債を引き継がずに済むため、リスクを限定したM&Aが可能です。
他方で、契約や許認可の再取得、従業員の再雇用手続きなど個別対応が必要となり、統合作業に時間と労力を要します。

事業譲渡と株式譲渡における税金と会計処理の違い

事業譲渡と株式譲渡では、課税主体や税目、会計処理の方法が大きく異なり、これを理解せずに手法を選ぶと、想定外の税負担や資金繰りへの影響が生じる可能性があります。

事業譲渡は法人課税や消費税の論点が生じる一方、株式譲渡は株主個人への課税が中心となります。
さらに会計上の「のれん」の扱いにも違いがあるため、事前の整理が重要です。

株式譲渡にかかる税金(所得税・分離課税など)

個人株主が株式を譲渡して得た利益は、原則として譲渡所得として申告分離課税の対象となります。
税率は20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)で、給与所得などとは合算されません。
このため税率が累進的に上がる仕組みではない点が特徴です。

口座区分によっては確定申告が必要となる場合もあり、譲渡方法や名義の確認が重要です。

事業譲渡にかかる税金(法人税・消費税)

事業譲渡は、譲渡益が法人の課税所得に含まれ、法人税等の対象です。
譲渡対価から資産・負債の帳簿価額を差し引いた差額が益金として扱われます。

また、棚卸資産や設備などの資産譲渡には消費税が課税される場合があります。
一方で、土地や有価証券の譲渡は非課税となるため、対象資産の区分整理が重要です。

仕訳や会計処理での「のれん」の扱いの違い

のれんは、取得対価が純資産の時価を上回る部分を指します。

事業譲渡では、取得した資産・負債を個別評価した上で差額がのれんとして計上され、同様に償却対象となります。
株式譲渡では、買い手側で連結上の取得差額として認識され、一定期間で償却処理が行われるのが特徴です。

計上方法に形式的な違いはありますが、いずれも会計基準および税務上の償却ルールに従って処理する点が重要です。

自社に最適なM&Aはどっち?株式譲渡と事業譲渡の選び方

株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかは、目的やリスク許容度、資金計画によって大きく異なります。
以下で代表的な判断軸ごとに整理して、何を優先するのかを明確にすることで、自社に適した手法を把握しましょう。

手続きのスピードと簡便さを最優先するケース

迅速かつ簡便にM&Aを進めたい場合は、株式譲渡が適しているといえるでしょう。

一方、事業譲渡は資産や契約ごとに個別対応が必要となり、関係者との調整に時間を要します。
スピード重視であれば株式譲渡が有力な選択肢となります。

簿外債務や訴訟リスクを確実に回避したいケース

簿外債務や潜在的な訴訟リスクを極力引き継ぎたくない場合は、事業譲渡が有効です。
株式譲渡では会社を包括的に承継するため、見えないリスクも含めて引き継ぐ可能性があります。

リスクをコントロールしたい場合は、対象範囲を明確化できる事業譲渡が適しています。

譲渡益を経営者個人で直接受け取りたいケース

経営者個人が直接譲渡対価を受け取りたい場合は、株式譲渡が適しています。
株主が保有株式を売却するため、対価は個人に帰属します。

事業譲渡では売却益は法人に帰属し、個人で受け取るには配当や役員報酬など別の手続きが必要です。

不採算部門の切り離しなど一部事業を残したいケース

一部事業のみを売却し、会社自体は存続させたい場合は事業譲渡が適しています。
譲渡対象を限定できるため、不採算部門のみを切り離し、主力事業に経営資源を集中させることが可能です。

株式譲渡では会社全体が移転対象となるため、部分的な整理には向きません。

手続きは複雑?契約書締結からクロージングまでの流れ

M&Aでは、基本合意から最終的なクロージングまで複数の工程を段階的に進めます。
契約条件の調整、デューデリジェンス、社内決議、関係者対応など論点は多岐にわたります。
ここでは、代表的なプロセスと注意点を解説します。

基本合意と株式譲渡・事業譲渡契約書の締結

まずは取引条件の骨子を確認する基本合意書を締結し、価格の目安や独占交渉権、スケジュールなどを整理します。
その後、デューデリジェンスを経て、株式譲渡契約書または事業譲渡契約書を作成します。

契約書には譲渡対象、対価、表明保証、補償条項、クロージング条件などを詳細に定めてください。

株主総会の特別決議や登記変更の実務

必要な社内決議や登記手続きは、手法により異なります。

株式譲渡は原則として株主間の取引ですが、譲渡制限会社では承認決議が必要です。
事業譲渡では、重要な事業の譲渡に該当する場合、株主総会の特別決議が求められます。
加えて、不動産や商号、許認可の名義変更など関連する登記・届出も確認が必要です。

まとめ:事業譲渡と株式譲渡の違いを正しく理解しよう

事業譲渡は対象を選べる一方、契約や許認可、雇用の移転を個別に進める必要があり、準備と調整が成否を左右します。
株式譲渡は会社を包括的に引き継げて手続きが比較的シンプルですが、簿外債務や偶発債務など見えないリスクも含めて承継する可能性があります。
スピード、リスク限定、譲渡益の帰属、税務・会計(消費税やのれん等)の影響を軸に比較し、基本合意→デューデリジェンス→契約→クロージングの流れで手戻りを防ぎましょう。

不安がある場合は検討初期から専門家へ相談し、条件設計と調査を固めることが成功への近道です。

コラム監修者

特定社会保険労務士

佐藤 広一(さとう ひろかず)

お問い合わせ

<資格>

全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号

東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号

<実績>

10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証プライム:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社エージェントグロー 取締役
経営法曹会議賛助会員

<著書・メディア監修>

M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上

TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演