
労働基準法を含む労働基準関係法制では、働き方の多様化や長時間労働への対応を踏まえ、休日や勤務間インターバル、副業・兼業など幅広い論点が議論されています。 ただし、2026年8月時点で一連の見直しがすべて成立・施行したわけではありません。
本記事では、現在検討されている主な改正論点や施行時期の見通し、企業への影響、就業規則や勤怠管理の見直しなど、今後の対応に向けて押さえたいポイントを解説します。 不安や疑問がある方も、ぜひ参考にしてください。
労働基準法の大改正が今議論されている背景と目的
労働基準法を含む労働基準関係法制では、働き方の多様化や長時間労働への対応を踏まえ、制度の見直しが議論されています。 ただし、現時点で一連の見直しがすべて法改正として成立したわけではありません。
ここでは、労働基準法の大改正が今議論されている背景と目的を解説します。
働き方の変化を受けて抜本的な見直しが議論される理由
労働基準関係法制の見直しが注目される背景には、1980年代以降に働き方や雇用環境が大きく変化したことがあります。 テレワークや副業・兼業などが広がり、従来の労働時間制度だけでは整理しにくい課題も生じました。 また、長時間労働を抑えながら柔軟な働き方を支える制度設計も求められています。
ただし、約40年ぶりの「大改正」がすでに決定したわけではなく、厚生労働省の研究会や労働政策審議会で幅広い論点が検討されている段階です。 今後は法案化の有無を含め、正式な決定を確認する必要があります。
働き方の多様化と長時間労働問題への対応
制度見直しでは、柔軟な働き方を支えることと、長時間労働から労働者を守ることの両立が重要な論点です。 テレワークや副業・兼業が広がる一方、勤務時間と私生活の境界や複数の勤務先にまたがる健康管理など、新たな課題も生じています。
また、現行の時間外労働の上限規制を踏まえ、休日や勤務間の休息をどのように確保するかも検討されています。 そのため、単に規制を強化するのではなく、多様な働き方を認めながら健康確保の実効性を高める制度設計が議論の中心となっているのです。
労働基準法改正はいつから施行される?2026年以降のスケジュール
労働基準法の見直しに関する各論点は議論が続いており、2026年8月時点で、この記事で扱う一連の制度変更について統一的な施行日は確定していません。 そのため、「2026年4月から大改正が施行される」とは断定できません。
ここでは、現在の検討状況と今後の確認ポイントを解説します。
厚生労働省が示す改正議論の現状
厚生労働省の労働基準関係法制研究会は2025年1月、休日や勤務間インターバル、副業・兼業など幅広い論点をまとめた報告書を公表しました。 その後も労働政策審議会で、働き方改革の施行状況や労働時間制度について議論が続いています。
ただし、研究会報告書に記載された内容は、そのまま成立した法律を示すものではありません。 2026年8月時点でも、主要論点のすべてについて施行日が決定した一括改正は確認できないため、企業は厚生労働省の法案・審議会情報を基準に最新状況を把握する必要があります。
2026年以降に予定される主な施行時期の見通し
現時点では、勤務間インターバルの義務化や連続勤務規制などについて、「2026年4月以降に順次施行される」と確定したスケジュールは示されていません。 研究会報告書では、制度によって経過措置や段階的な導入を検討する考え方が示されていますが、具体的な施行日は法律の成立後に定められます。
そのため、企業は未確定の時期を前提にシステム改修や規程変更を確定するのではなく、論点を整理しながら準備を進めることが現実的です。 法案提出や公布があった段階で、施行日と経過措置を改めて確認しましょう。
労働基準法の見直しで議論されている7つの主要ポイント
今後の労働基準関係法制では、休日、勤務間インターバル、副業・兼業など複数の論点が検討されています。 ただし、研究会で方向性が示された内容と、現在すでに法律上の義務となっている内容は区別が必要です。
ここでは、労働基準法の見直しで議論されている7つの主要ポイントを解説します。
14日以上の連続勤務の禁止と上限規制の検討
連続勤務について、研究会報告書では長期間にわたり休日がない勤務を防ぐため、新たな規制を設ける考え方が示されました。 より正確には、「13日を超える連続勤務をさせてはならない」とする規定を労働基準法に設ける方向が提案されています。 また、災害復旧などやむを得ない場合の例外も検討課題です。
ただし、この上限規制は2026年8月時点で施行済みのルールではありません。 現行の休日規制を守りつつ、将来の制度変更に備えて長期連続勤務が生じる勤務体系を把握しておくとよいでしょう。
法定休日を特定する義務の明確化
現行の労働基準法は、原則として毎週少なくとも1回の休日を与えるよう定めていますが、どの日を法定休日とするかをあらかじめ特定する条文は設けていません。 研究会報告書では、法的な予見可能性を高める観点から、法定休日を事前に特定する仕組みを法律上明確にする方向が示されました。
また、休日の振替手続きやシフト制での特定時期なども検討事項です。 ただし、具体的な義務内容や罰則まで確定したわけではないため、現時点では今後の法制化を確認する必要があります。
勤務間インターバル制度の義務化検討
勤務間インターバルは、終業から次の始業までに一定の休息時間を確保する制度で、現行法では事業主に導入の努力義務が課されています。 研究会報告書では、制度の導入促進に加えて義務化も視野に検討する必要があるとされ、11時間を原則とする案や、それより短い時間とする案などが示されました。
ただし、11時間の確保や制度導入がすべての事業場に法的義務として確定したわけではありません。
年次有給休暇の賃金を通常賃金方式に原則化する案
現行法では、年次有給休暇を取得した日の賃金について、平均賃金、通常の賃金、労使協定に基づく標準報酬月額相当額の3方式が認められています。 研究会報告書では、日給制や時給制で金額が大きく減る場合があることを踏まえ、原則として通常の賃金方式を採用する方向が示されました。
ただし、これは現時点で成立・施行した改正ではなく、現在も3方式が法令上認められています。 そのため、企業は現行の計算方法を直ちに変更するのではなく、法改正の有無を確認しながら給与規程への影響を整理することが大切です。
つながらない権利に関するガイドライン整備
「つながらない権利」は、勤務時間外の連絡によって私生活や休息が過度に侵害されないようにする考え方です。 研究会報告書では、時間外に許容される連絡の範囲や拒否できる連絡を労使で検討し、その話し合いを促すガイドラインなどの方策を検討する必要があるとされました。
一方、日本で「つながらない権利」がすでに法制化されたわけではありません。 そのため、企業は緊急連絡の範囲や返信を求める時間帯などを自主的に整理しつつ、今後の国のガイドライン策定や制度化の動向を確認することが重要です。
副業・兼業における労働時間通算ルールと割増賃金の見直し
現行制度では、雇用型の副業・兼業について、事業主が異なる場合でも一定の方法で労働時間を通算し、割増賃金を計算する取扱いがあります。 研究会報告書では、この管理負担を踏まえ、健康確保のための労働時間通算は維持しつつ、割増賃金の支払いでは通算を不要とする制度改正が検討課題として示されました。
つまり、今後「通算を強化する」と決まったわけではなく、むしろ目的別に扱いを分ける方向が議論されています。 現行ルールは引き続き適用されるため、正式な法改正までは現在のガイドラインに沿った管理が必要です。
週44時間の特例措置(特例事業)の廃止検討
現行制度では、常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の一部事業場について、法定労働時間を週44時間とする特例があります。 研究会報告書では、対象事業場の多くが特例を利用していない実態を踏まえ、廃止に向けた検討に取り組むべきとされました。
ただし、2026年8月時点で特例が一律廃止されたわけではありません。 該当企業は現在の適用状況を確認し、制度変更が決まった場合に勤務体系を調整できるよう準備するとよいでしょう。
特に企業への影響が大きい改正項目を深掘り解説
検討中の論点が法制化された場合、勤怠管理やシフト作成への影響が大きいのは、勤務間インターバルや副業・兼業などです。 また、勤務時間外の連絡ルールも社内運用に関わります。
ここでは、現行制度と検討段階の内容を区別しながら、企業が準備しておきたいポイントを掘り下げます。
勤務間インターバル義務化がもたらす勤怠管理の変化
勤務間インターバルの義務化が実現した場合、企業は1日単位の労働時間だけでなく、前日の終業から翌日の始業までの間隔も管理する必要が生じます。 例えば、深夜まで残業した従業員を翌朝早く勤務させるシフトでは、設定された休息時間を確保できない可能性があります。
そのため、勤怠システムで勤務間隔を確認し、シフト調整につなげる仕組みが重要になるでしょう。 ただし、具体的な休息時間や例外、代替措置は確定していません。
つながらない権利に関する調査結果と現場のリアル
スマートフォンやチャットツールの普及により、勤務時間外でも業務連絡を受けやすくなり、仕事と私生活の境界が曖昧になることがあります。 研究会報告書でも、突発対応や顧客からの要求などにより時間外対応が生じる実態を踏まえ、「つながらない権利」に関する社内ルールを労使で検討する必要性が示されました。
ただし、日本で一律の権利や連絡禁止時間が定められたわけではありません。 企業は業務上必要な緊急連絡と通常連絡を分け、返信を求める範囲や時間帯を明確にすることで、休息確保と業務継続を両立しやすくなります。
副業解禁時代における労働時間通算の実務課題
雇用型の副業・兼業では、現行制度上、複数の使用者のもとで働く時間を通算して管理する場面があり、労働者からの申告などを通じた情報把握が必要です。 一方、勤務先同士が相手先の労働時間を自動的に把握できる仕組みではないため、実務負担が課題となっています。 研究会報告書では、健康確保のための通算管理を維持しながら、割増賃金計算では通算を不要にする方向も検討されています。
そのため、企業は現行ガイドラインに沿った申告・管理方法を整え、将来は管理目的が分かれる可能性も見据えることが重要です。
労働基準法改正で企業に求められる実務対応
検討中の制度がすべて施行されたわけではないため、企業が現時点で一律に規程やシステムを変更する必要はありません。 一方、将来の法制化に備え、勤務実態や現在の規程を点検しておくことは有効です。
ここでは、労働基準法改正で企業に求められる実務対応を解説します。
就業規則・雇用契約書ひな形の改定ポイント
現段階では、研究会報告書の検討内容だけを根拠に改定する必要はありません。 ただし、法定休日の特定や勤務間インターバルなどが法制化された場合、休日・始業時刻・終業時刻・休息制度に関する規定の見直しが必要になる可能性があります。 また、副業・兼業の申告方法や時間外連絡のルールは、現行制度の範囲でも社内で整理できます。
そのため、現在の規程と運用の差異を洗い出し、法案成立後に改定項目を特定できる状態にしておくことが有効です。 未確定の内容を義務として先行記載しない点にも注意しましょう。
勤怠管理システム・給与計算システムの改修
勤怠・給与システムの改修は、法改正内容と施行日が確定してから要件を固めることが基本です。 一方、勤務間隔や連続勤務日数を現在のシステムで把握できるか、年次有給休暇の賃金方式をどの設定で計算しているかなどは事前に確認できます。
また、副業・兼業の労働時間をどのように申告・記録しているかも整理しておくとよいでしょう。 検討段階の内容だけで大規模改修を始めると手戻りが生じる可能性があります。
従業員への周知と社内教育体制の整備
法改正が成立した場合は、変更されるルールを管理職や従業員へ正確に周知し、現場の運用まで落とし込むことが重要です。 ただし、検討中の内容を確定事項として伝えると、誤解や不要な混乱を招く可能性があります。
そのため、現時点では「現在の義務」と「今後検討されている事項」を分けて案内するとよいでしょう。 また、正式な改正後は就業規則や勤怠運用の変更点をまとめ、対象者ごとに説明する体制を整えます。 相談窓口やFAQを用意すれば、管理職による運用のばらつきを抑え、制度変更を社内へ定着させやすくなります。
グループ会社間でのルール統一と運用ガイドライン策定
グループ会社では、業種や勤務形態が異なるため、法改正への対応をすべて同じルールに統一することが適切とは限りません。 一方、法令解釈や最低限の管理基準を共通化すれば、対応漏れを減らしやすくなります。
そのため、本社が基本方針やチェック項目を示し、各社が自社の就業規則やシフト制度に合わせて具体的な運用を整える方法が現実的です。 また、施行日や経過措置が確定した後は、各社の進捗を共通の様式で確認すると管理しやすくなります。
改正対応の抜け漏れを防ぐチェックリストと進め方
法改正への対応では、未確定の情報に振り回されず、確定した内容から順に影響を整理することが重要です。 特に、労働時間制度は勤務形態によって影響が異なるため、自社の現状把握が欠かせません。
ここでは、改正対応の抜け漏れを防ぐチェックリストと進め方を紹介します。
自社対応の優先順位を決める判断基準
対応の優先順位を決める際は、まず現在の法令を守れているかを確認し、そのうえで将来の改正による影響が大きい業務を洗い出します。 例えば、長期の連続勤務が生じる職場や深夜勤務の翌日に早朝勤務がある職場は、休日・勤務間インターバルの議論による影響を受けやすいでしょう。 また、副業者が多い企業では申告や労働時間把握の運用確認が重要です。
一方、検討段階の制度に合わせて規程を先に変更する必要はありません。 法案成立や施行日決定の段階を追い、法的な緊急度とシステム改修期間を基準に対応順位を決めることが大切です。
社労士・外部専門家への一部委託という選択肢
労働法制の見直しでは、現行ルールと検討中の制度を区別しながら対応する必要があるため、社内だけで判断しにくい場合は社会保険労務士などへ相談する方法があります。 例えば、就業規則の点検、36協定や労働時間管理の確認、改正後の規程案作成などを委託すれば、担当者の負担を抑えやすくなるでしょう。
ただし、社会保険労務士が対応できる業務には範囲があり、訴訟対応や個別の法律紛争などは弁護士への相談が適する場合があります。 そのため、依頼したい業務を整理したうえで、法務・労務・システムなど必要な専門家を使い分けることが重要です。
まとめ:労働基準法の改正ポイントと今後の対応策
労働基準関係法制では、連続勤務の上限、法定休日の特定、勤務間インターバル、副業・兼業など、企業実務に影響する幅広い論点が検討されています。 ただし、2026年8月時点でこれらが一括して成立・施行したわけではなく、具体的な義務内容や施行時期も未確定の項目があります。
そのため、企業は検討段階の情報を確定事項として扱わず、まず現行法に沿った労務管理ができているか確認することが重要です。 そのうえで、勤務実態や就業規則、勤怠・給与システムの現状を整理し、法案成立後に必要な対応へ移れる準備を進めましょう。 厚生労働省の審議会や法案情報を継続的に確認し、必要に応じて専門家へ相談することも有効です。
HRプラス社会保険労務士法人では、法改正動向を踏まえた人事労務相談をはじめ、就業規則や社内ルールの見直しも支援しています。 改正内容を自社でどこまで反映すべきか判断に迷う場合は、専門家の知見を取り入れることも有効です。
法改正への対応や労務管理の見直しでお悩みの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。
コラム監修者
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証プライム:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社エージェントグロー 取締役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演






